遺跡学研究 ブックデザイン | 日本遺跡学会
遺跡学研究
Book Design
Art direction, Graphic design, Editorial design
Art Director: Shimizu Ryo
Cl: 日本遺跡学会
遺跡学に通底したコンセプトを体現する
「遺跡」という過去の人間の営みが遺した跡を、デザインによってどのように表現するか。こうした着眼点からデザイン検討を開始しています。
最初のステップとして遺跡の持つ価値を想起させる「キーワード」を抽出し、それにふさわしいデザインの方向性を探索するところからはじめています。キーワードアイデアとして、多層性や手の跡、砂や土といった自然のテクスチャー、触感と見えない感覚の視覚化といった言葉を元に検討し、最終的に表紙のデザインは砂をちりばめた模様の「OKサンドカラー」を用紙に、「凸版文久見出しゴシック」を組み合わせました。
タイトルは、模様と近い特色で印刷することで「図と地」の境界を曖昧にし、テクスチャーの中から文字が浮かび上がるような印象をめざしました。「凸版文久見出しゴシック」の持つ、角の削られたような手の跡の残る印象を受ける造形も、そうした印象の統一に寄与しています。
レイアウトのための細いガイドラインを残し、デザイン過程の一端を見せることでプロセスの重要性を表現しています。
和文書体:凸版文久見出しゴシック エクストラボールド・凸版文久ゴシック
欧文書体:EuropaGroteskSH-Med
用紙:OKサンドカラー(なす)170kg
特色:DIC-435(第20版)
情報の階層構造を視覚化する
学会誌である『遺跡学研究』は、表題、筆者名、所属やキーワードなど様々な情報が冒頭に記載されることになります。それらの情報を適切に整理し、構造化した上で、読者にわかりやすく視覚的に認識できるようなレイアウト設計を心がけました。
こうしたデザイン意図を、複数のテキストブロックを上から下へ順に配置することで表現しています。整数比による幅の異なるブロックと縦罫線の組み合わせによって、優先度の高い情報を大きく、優先度の低い情報は小さく配置しました。文章を読む際の視線移動の方向性についても意識しながら、テキストの分量が大きく異なっても対応できる、フレキシブルなレイアウト設計を実現しています。
本文レイアウトについては、欧文書体は、TRAJAN(トレイジャン)という書体を選定しました。
これは全てのローマン体大文字の源とされる碑文を元につくられた書体で、イタリアに今も現存する「トラヤヌス帝の碑文」をベースとしたものです。源とも言われる古く伝統的な出自を持ちながら、優雅で品格のあるこの書体を基本の欧文書体として使用する事で、誌面全体のトーンを設計していきました。
日本語本文は、ウェイトバリエーションが多い日本語書体「黎ミン」を用いています。寄せられる論考の多くは、章、節、項など多くの階層構造を持ったものが多く、ウェイトのバリエーションによって、視覚的にわかりやすい文字組を実現するためのものです。
表紙デザインの検討プロセス
表紙デザインのプロセスでは、コンセプトを元にいくつかの異なる方向性を検討しています。
検討案1
「多層化された波」(左)
重層的な研究の側面を、細い波模様のテクスチャーで表現しています。
和文書体:A-OTF 黎ミン Pro
欧文書体:Trajan Pro
検討案2
「レイヤー化された印刷表現」(中)
黒と白の印刷の順序をコントロールし、重なりによってレイヤーを表現する。グレーのボール紙を想定。
和文書体:A-OTF 黎ミン Pro
欧文書体:Trajan Pro