2022年にリブランディングされたデザイン事例5選

2022年にリブランディングされたデザイン事例5選

2022年、いくつもの素晴らしいデザインのリブランディングが実施されました。

この記事では、2022年に行われたリブランディング事例の中から着目したデザインを取りあげます。オリジナリティを伴ったブランディングをどのように実施していくかといった観点から、デザインのヒントや洞察を共有します。(この記事は【QUMZINEアドベントカレンダー2022】にエントリーしています!)

*12月22日「06. CITROËN」を追記しました。
*12月24日「07. Deutsche Telekom」を追記しました。

INDEX


01. CNET

CNETリブランディング事例前後比較

テクノロジーや家電製品に関するニュース、ブログ等で知られるテクノロジーメディアブランド「CNET」。

近年のリブランディング事例の多くが、時にシンプルすぎるサンセリフ体ばかりというトレンドにある中、強烈な印象を与える非常にチャレンジングなデザインで個人的にも素晴らしいリブランディング事例のひとつではないだろうか。

CNETブランドロゴ リブランディング事例

スラブセリフをベースとしたロゴタイプは個性的な「N」の書体デザインによって、よりそのオリジナリティが強調され独特な印象を与えられている。

Robert Beatty 氏によるイラストレーションは、80〜90年代を想起させるような色使いとテクスチャーなどによってノスタルジーを感じさせつつ、その世界観を強固なものにしている。

CNETブランドロゴ リブランディング事例

「CNET」のリブランディング事例について、他アイテムへのブランディング展開や、ロゴタイプのグリッド分析については「CNETロゴのリブランディング事例と分析」にまとめている。


02. Instagram

インスタグラム(Instagram)ブランドロゴ リブランディング事例

Instagramのリブランディングはディティール調整グラデーションカラー変更を主としたもの。加えてアイコンを描くストロークを太く、力強さが若干強調された。

全体的に明るく彩度の高いカラーへ変更されており、強調しすぎと思われるほど派手な色使いと言える。
古いデザインは(今となっては)落ち着いた印象を与えるカラーリングだが、リブランディングに伴ってRGBカラーモードでのみ再現可能なものとなり、完全なデジタル環境への移行とも受け取れる。
(新しいデザインをCMYKカラーモードへ変更すると元の落ち着いた色味へ戻るのも興味深い。)

大幅な変更をせず、これまでのブランドアセットを活用しながら、微細な調整によってデザインを更新した好例といえる。

インスタグラム(Instagram)ブランドロゴ リブランディング事例

Instagramによると、グラデーションの表現はブランドのアイデンティティを構成するもっとも重要な要素と捉えており、上記のようにグラデーションの中のキーカラーを指定、彩度の高いビビッドなカラーパレットが用意されている。

このグラデーションは、初期のアイコンで用いられたポラロイドの虹に着想を得たもので、現在ではアプリの内外で使用できるように動的な表現にも耐えうるように再設計された。

インスタグラム(Instagram)ブランドロゴ リブランディング事例
インスタグラム(Instagram)ブランドロゴ リブランディング事例

リブランディングを重ねる毎にもともとのモチーフであったポラロイドカメラは抽象化され、シンボルマークのデザインはシンプルになっている。その一方で、サービスが提供する体験価値、遊び心や人間味をデザインによって反映できずビジュアルエレメントからは失われたとも言える。

そうした点を補うためなのか、新しく開発された独自の書体「Instagram Sans」では、過剰とも言える装飾的な要素も見受けられた。

大きな設計方針はグリフ(字形)の形状とシンプルさとクラフトへの取り組みを反映し、真円と正方形の中間の柔らかいカーブを持った造形が書体全体に反映されている。

ブランドサイトはこちらの公式ページにまとめられている。

インスタグラム(Instagram)ブランドロゴ リブランディング事例

03. GSK

GSKブランドロゴ リブランディング事例

イギリスのグローバル製薬企業GSK(グラクソ・スミスクライン)は、現在世界第6位のバイオテクノロジー企業であり、ワクチン製造、処方薬などの分野でよく知られている。

今回のリブランディングでは、薬剤を想起させる親しみやすい形や、優雅なカーブによって描かれた小文字のロゴタイプは無くなり、垂直水平のラインと角が丸まったような幾何学的なロゴタイプデザインへ大幅に刷新された。

GSKブランドロゴ リブランディング事例グリッド分析

ロゴ対応3文字の書体はすべて同じサイズの正方形のグリッドにほぼ収まっており、「DNA Twist」を表現するねじられた形状が特徴的である。

この処理の結果、ねじられた形状と切り込みのようなディティールを随所に展開し、ブランドのグラフィックエレメントとして機能させている。

GSKブランドロゴ リブランディング事例

「GSK」のリブランディング事例について、他アイテムへのブランディング展開や、ロゴタイプのグリッド分析については「GSKロゴのリブランディング事例と分析」にまとめている。


04. ASTON MARTIN

アストン・マーチンブランドロゴ リブランディング事例

著名なイギリス人デザイナー、ピーター・サヴィル氏によってリブランディングされた「Aston Martin」。こちらもディティール調整による素晴らしいリブランディング事例だが、タイポグラフィの扱いやラインの削減など明快な意図が感じられるデザインに。

翼の全体的な輪郭を維持し、エッジの部分を滑らかにすると同時にラインをやや太く、力強さをもったものに。特徴的なシルエットはそのままに単純化することで社名表記のスペースをより大きく確保しています。

アストン・マーチンブランドロゴ リブランディング事例

翼を描くラインを太くした調整に合わせてロゴタイプも同様の調整が行われています。

縦横のストロークの太さに若干のコントラストのある書体で、ブランドムービーなどへの展開も。

アストン・マーチンブランドロゴ リブランディング事例

秀逸なのは、このエンブレム制作のプロセスとデザイン。
ラインを太く、ロゴタイプを大きく調整したデザインの意図が明確に伝わります。平面的なグラフィックデザインだけではなく、エンブレムというモノのデザインにまでデザイナーの想像力が及ぶところに、本リブランディング事例の特筆すべき点があるのでは。

アストン・マーチンブランドロゴ リブランディング事例

(ピーター・サヴィル氏の作品といえば、このほかにも英国ブランド、BURBERRYなどのリブランディングなどが挙げられます。)


05. BRAUN

ブラウン(BRAUN)タイポグラフィ リブランディング事例

ドイツの小型電気器具メーカー「BRAUN」は、新しいコーポレートフォント「Braun Linear」を発表。

ストロークの太さの変化がほとんど無いため「Linear(リニア)」と名付けられたこの書体は、Helveticaに似つつ幾何学的なディティールを持つ独特の印象を獲得。プロダクトディテールの両端フルRの造形を活かしたプロポーションが特徴的。

ブラウン(BRAUN)タイポグラフィ リブランディング事例

下図はHelveticaとの比較、Helveticaよりも文字幅が狭くより対称性を持たせ、ドットも円形に調整されている。そのため丸みを帯びたディティールが増え、柔らかな親しみのあるデザインに。

一方でHelveticaは数字の「2」の斜めストロークがちょっとくせがあり使いづらい点もあるが、このディティールについては直線的なデザインになってる。

ブラウン(BRAUN)タイポグラフィ リブランディング事例

既存のコーポレートロゴタイプとは併用とのこと、ニュートラルな印象なので商品プロダクトとの統一感・一貫性をどのようにコントロールしていくのか非常に興味深い。

ブラウン(BRAUN)タイポグラフィ リブランディング事例

06. CITROËN

シトロエン(CITROËN)ブランドロゴ リブランディング事例

1919年に設立されたフランスの自動車メーカー「CITROËN」。
今回のリブランディングでは、創業者アンドレ・シトロエンが初めて採用したロゴを再解釈し(下図左上)、近年のトレンドを反映するように、よりフラットに、シンプルなデザインとなった。

2016年の、半ば強引にも見える立体表現とエッジの丸まった柔らかいロゴタイプデザインとは決別し、エッジの鋭い明快なカラーリングとなっている。

シトロエン(CITROËN)ブランドロゴ リブランディング事例

この特徴的な上向きの楔形の形状は、“deux chevrons(ドゥ・シェブロン)”と呼ばれ、最初に設立した金属加工会社がこのシェブロン形状の「ヘリンボーン」ギアシステムを製造して成功を収めたことに由来する。

これまでのシンボルマークの変遷を見てもこのシェブロン形状をコアアイデンティティとして捉えており、それをどのように表現するか、という点から様々なアプローチを試みているのがわかる。

シトロエン(CITROËN)ブランドロゴ リブランディング事例

ロゴタイプデザインのディティールは、「E」にある両端がフルRとなった横長のウムラウトは、全体的に横に広い平体がかったロゴタイプに沿わせる意図だと思われるが、不自然に感じる程度には長く若干の違和感も。

このあたりは、5. BURAUN におけるプロダクトデザインのディティールとの整合などが参考になるのではと考える。

シトロエン(CITROËN)ブランドロゴ リブランディング事例
シトロエン(CITROËN)ブランドロゴ リブランディング事例

リブランディングと同時に発表されたコンセプトカー。鮮やかなレッドによるシンボルが映える。

一方で上向きのシェブロン形状に対して、水平のテクスチャーが施してあるため、シンボルの持つ上向き方向性との齟齬が目立つ結果に。

ウムラウト(独: Umlaut)とは、ゲルマン語派のいくつかの言語において見られる母音交替現象、またはそれによって変化した母音を示すためのダイアクリティカルマーク(発音区別符号)で、ラテン文字の母音字の上部に付される横並びの2点「¨」を指す。


07. Deutsche Telekom

ドイツテレコムブランドロゴ リブランディング事例

1995 年に設立された「Deutsche Telekom(ドイツテレコム)」は、2億4,000万以上のモバイル顧客を擁し、50か国以上に拠点を置く総合通信会社。

「デジタル通信事業をリードする」戦略と国際的なブランドポジショニングの一環として、「デジタルライフへの参加、持続可能な活動、および社会的結束」にフォーカスし、ワンブランドアプローチと国際的なブランドアーキテクチャを導入した事例。 シンボルを兼ねる「T」のロゴタイプデザインをコミュニケーションの軸とし、ビジュアルエレメントを統一した。

「T」の右側に配置されていた四角いエレメントが消え去り、「1-T-1(数字-T-数字)形式のロゴ」がより強調されたことで、明確なブランドアーキテクチャの基盤を確立した。ブランディングデザインはドイツの「MetaDesign」による。

ドイツテレコムブランドロゴ リブランディング事例

本リブランディング事例も、主にはディティール調整によるもの。リリースに、書体のデザインについての調整意図が記載されている。全体を通して、デジタルデバイス上でのスモールサイズ表示への対応と、それに伴う幾何学的なディティールへの調整が見て取れる。

1. ストレートな角度:左右から降りるアームの先端を、斜めの角度から水平へ
2. 強化されたトップライン:トップの水平ストロークを太く調整
3. 最適化された曲線:セリフ内側の曲線のRを若干大きくし、内部スペースを拡大
4. 短いアームと要素間距離の拡大:上部から伸びたアームを短く、左右の四角(ディジット)との距離を確保
5. ステムのウェイト調整:中心の垂直ストロークを太く、書体の重心を強調
6. 内側スペース調整:左右の四角(ディジット)の位置を外側へ調整
7. セリフの補強:ステム幅の調整に応じて下部の水平ストローク幅を太く調整

ドイツテレコムブランドロゴ リブランディング事例
ドイツテレコムブランドロゴ リブランディング事例

ブランドカラーは「マゼンダ」が指定され、カラーモード・多様なアプリケーションでの展開(上写真)への配慮が見られる。

またスモールサイズでの使用にも耐えうる可読性を持ち、ブランド広告での写真との重なりをもったレイヤー的な展開も興味深い。

一方色味が単純なマゼンダであるためかやや軽々しい印象を受けるが、この「T」が文字通り生活に根付くというアイデアの実現を期待させる、拡張性の高さと細部に渡るディティール調整が特徴的なリブランディング事例といえる。


おわりに

2022年に行われたリブランディング事例を取りあげました。ここ数年のトレンドを反映するように、シンボルデザインの抽象度はより高くなり、サンセリフ体のようなニュートラルでモダン、無機質なロゴタイプが多くを占めます。

その中で「CNET」や「GSK」のような独自のアプローチを採用したデザインは際立ちます。一方、そのデザインの立体化された際の見せ方については、今後のブランド運用を注視する必要があります。尖った鋭角のディティールが、そのまま展示会のディスプレイデザインに応用できるわけではないように…

そうした統一された「世界観」のデザイン表現は極めて重要で、デザイナーが組織のブランディングデザインに寄与できるのはこの点であると言えます。そしてそこに本物の関係性や意味を持たせられるのは、その組織が提供する製品やサービスそのものであり、それに代わるものはありません。

ブランド開発を実施するにあたり、組織やサービスの特長をとらえ、どういったアイテム、チャネルへアプリケーションを展開するか、といった部分を明確にすることで、その組織の独自性をともなったデザインが生み出せると考えます。

僕の敬愛するデザイナー、ポール・ランドは

「ロゴには、ロゴが表している香水以上の香りはない」 ポール・ランド

と述べています。

本質的な価値を見出さない、表層的なデザインでは好ましいブランディングデザインにはたどり着けません。
今回ご紹介したデザインも、コンセプトの起点にあるのはその会社の香りです。
そうしたデザインプロセスそのものにオリジナリティを伴ったブランディングの要があると言えるでしょう。

*記事内の全てのシンボルマーク、ロゴタイプおよび関連する画像は、全てそれぞれの会社、組織に帰属します。

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