フランスパビリオンとブランドが魅せる展示のデザイン

ブランド国家としてのパビリオン
ヨーロッパ連合(EU)において最大の国土面積を有するフランスは、広大な土地とそれに根ざした多様な文化によって多くの人を魅了しています。特に、芸術やフランス料理、ファッションはフランスを代表する主要な文化として広く認知されていますね。年間1億人にも達する観光客数は世界一を誇り、フランスの魅力が世界的に高い評価を得ていることを示しています。
そんなフランスのパビリオンですが、光沢のある銅色の螺旋階段が印象的な洗練された外観です。説明によると、エントランスは開放的な劇場がデザインされ、パビリオン建屋の外側は、劇場のカーテンのようなベールで覆っているようです。
テーマは「愛の讃歌」。互いの小指が見えない魔法の糸で結ばれているという「赤い糸の伝説」。この赤い糸を通じて、「自分への愛」、「他者への愛」、「自然への愛」といった様々な「愛」に導かれる新しい未来のビジョンが提案されています。

国旗の三色のカラーはLED照明によって表現されています。少しづつ色味が移り変わりながらゆるやかに変化を見せる演出で、時間によって表情が変わるデザインは見ていて飽きません。

「FRANCE」の書体もオリジナルデザインのようですね。特徴的なディティールをしています。またパビリオン内の全てのピクトグラムも独自にデザインしており、力の入れようが伺えます。
ピクトグラムデザインは、ファサードの上から吊り下げられたロープのモチーフを転用したのか、ラインで表現されています。エッジも丸みを帯びていて柔らかく親しみやすい印象です。
そうしたデザインはどれも考えられてつくられていて、あらゆる場面で品質の高さを感じました。また日本文化へのオマージュも見て取れるデザインで、このエントランスの暖簾のようなモチーフなど、「日本におけるフランスのパビリオン」デザインという観点からも興味深いです。
ブランドによるパビリオンの展示デザイン

螺旋の階段を上ってパビリオンの中に入ると、無数のLEDが吊り下げられたロープが天井から床まで伸びています。全体が明滅したり、波のように連動したりしながらダイナミックな動きを魅せてくれます。

ルイ・ヴィトンのトランクで敷き詰められた展示室。中央にロダンの手の彫刻があり、天井には全面鏡がはられているため、非常に広大な空間のように錯覚します。扉が開いたトランクに写真や映像、ハンガーなどのシルエットが映し出され、幻想的なデザインです。

次の部屋も同じくルイ・ヴィトンの展示です。トランクをジョイントでつなぎ合わせて巨大な球体をつくっています。ゆっくりと回りながら周囲の映像が映し出され、迫力のあるコンテンツです。

サイズ感はこのような感じ。かなり大きく見応えがあります。

途中で空が開ける空間には、水が張られた池に木が生えています。全体的に暗く周囲の照明しか明かりが無いので、こちらもとても幻想的な印象でした。

フランスワインを想起させるような葡萄のオブジェ。出口はワインボトルのシルエットにくりぬかれています。分かりやすいモチーフです。
壁に投影される映像も抽象的ながら音楽ととても調和していました。

こちらはディオールの展示です。主に白色を基調とした展示内容でした。写真に3脚ほど見えるガラス製のイスは吉岡徳仁氏のデザイン。静謐な空間にとても良く合っています。

サイズが徐々に変化していくトルソーが壁から生えています。同じ白色でもドレスの形によって表情が様々ですね。

こちらは妹島和世氏デザインのバッグ。こうしたさりげない部分に日本との関係性を展示しているのが面白いです。


その他、フランスと日本の歴史的文化財を白いオブジェで展示した空間。

セリーヌは、日本の職人さんとのコラボレーションでメゾンのエンブレムである「トリオンフ」を展示していました。こちらは5月11日(日)までの期間限定展示とのこと。

特に素晴らしかったのは、この大きな液晶と、それに向かい合わせに立てられた鏡の屏風です。日本らしいモチーフを、素材を変えることによってここまで新しい印象にできるのかと驚きました。映されている映像は自然や風景のものが多く、鏡の方を見ていても破綻なく鑑賞できるのも面白いと思います。
展示デザインには、はっきりとブランドのモノグラムやロゴタイプが表記されているものがほとんどで、万博におけるパビリオンの展示としてふさわしいのかどうかという点では首をかしげる部分もありました。ルイ・ヴィトンやディオール、セリーヌは全てフランスパビリオンのメインスポンサー「LVMH」の傘下ブランドです。
しかし、展示自体のコンセプトやクオリティの高さがそうした疑念を上回っており、予想をはるかに超えていた印象で見る価値のあるものだと思いました。日本の伝統工芸とのコラボレーションや、日本人のデザイナーのプロダクトとの共演など、万博展示としての工夫があったのも素晴らしかったと思います。
ここまで紹介した写真は、入り口から入って展示されている順序に忠実に掲載しています。気付かれた方もいると思いますが、ブランドとブランドの間に必ずニュートラルな展示を間に差し込んだ構成で組み立てられています。とても広告的なアプローチですね。

展示室を出た先には、グッズショップがあります。エッフェル塔のオブジェやスノードームの他、今回の万博のためにデザインされたシンボルマークがあしらわれてグッズなど多種多様なアイテムがありました。 全て3色旗の赤・白・青のカラーリングで統一されていたので、全体的に調和のとれたショップに見えます。

その他にもフランスの伝統的なパンやペストリーを提供するベーカリー&パティスリー「La Boulangerie」があります。パンの種類も豊富で、コーヒーなどの飲み物もあり人気でした。パビリオンに入る列とは別になるので、並ぶ際は注意が必要です。

全体としては展示室の数も多く、それぞれが独自の世界観によってクオリティ高くデザインされていて、見応えのあるパビリオンだと思います。文字による説明パネルなどもほとんどなく、「見るだけ聞くだけで楽しめる」という点はどの展示室にも徹底されていたのではと思います。五感で感じるという観点で多様なアプローチが経験できました。
人気のパビリオンなので、平日でも30分ほど並びましたが、その価値はあると思います。機会があれば是非訪れてみてください。
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