国の色は誰が決めるのか—FIFA 2026ワールドカップ ユニフォームと国旗のカラー設計について

国のアイデンティティ、その「らしさ」を最も端的に象徴するのが、国旗のデザインと言えます。色や形、モチーフの選択ひとつひとつに、その国の歴史や理念が織り込まれています。
ところが、国を象徴する色は国旗だけが担っているわけではありません。もう一つの「国の色」が、ナショナルチームのまとうユニフォームです。2026年6月から開幕するFIFAワールドカップ2026は、歴代最多の48カ国が参加する史上最大規模の大会ですが、それらの国の国旗とユニフォームのデザインに採用される「色」は必ずしも一致するわけでは無いようです。
サッカー日本代表と聞いて思い浮かべる青色のユニフォームは、私たちの国旗にあしらわれた日の丸のどこにも見当たりません。オランダ代表のオレンジ色のカラーも現在の三色旗には含まれていません。
旗が「公式に定められた色」だとすれば、ユニフォームは「デザインされ、記憶される色」です。本稿では、2026年ワールドカップに出場する3か国、ベルギー、日本、オランダのホームユニフォームを配色分析し、旗と一致する色/乖離する色がそれぞれ何を語るのかを読み解いていきます。
なお、今大会そのもののブランドデザイン、FIFA公式エンブレムやホストシティの色彩設計については、別記事「FIFA 2026ワールドカップのブランドデザイン分析—「分散型ビジュアル・アイデンティティ」の構造」で扱っています。大会を運営する側の色と、参加する国の色。あわせて読むと、ひとつの大会をめぐる色の設計が立体的に見えてきます。
分析の方法について
分析は、FIFAの公式Webサイトから、各国のユニフォーム画像を収集したデータをもとに色を読み取り、背景を除外したうえで、被写体(ユニフォーム本体)の面積比・彩度・明度を算出したものです。
そうした数値は撮影条件や生地の質感、コントラストに左右されるものです。そのため以下に示した数値は絶対値ではなく、相対的な傾向をつかむものとしてお読みください。
一致型のカラー戦略:国旗と同じ色を持つベルギー
国旗とユニフォームのデザインには、様々なアプローチが見られます。一貫したルールを読み取ることは難しいですが、まずはその配色について国旗との一致度が高い、すなわち国旗とユニフォームに採用されている色が同じケースを見ていきましょう。


ベルギーの国旗は、黒・黄・赤の三色を縦に均等な幅で配置した構成です。同国代表「レッド・デビルズ」のユニフォームも、この三色をそのまま踏襲してデザインされている点が特徴的と言えます。
ユニフォームにおける配色分析では、主要色である赤が被写体の92.6%を占め、襟と袖に黒と黄がアクセントカラーとして加わっています。
興味深い点は、国旗とユニフォームで「色の比率」が異なることです。国旗は三色を均等に分けますが、ユニフォームは赤色に9割以上を振り切っています。色の出どころは旗に忠実でも、面積の配分は別途設計されているようです。一致型に見える国でも、どの色を主役に据えるかというデザインによって意図を表現していると言えます。
乖離型のカラー戦略①:国旗にない色を選んだ日本の青
日本の国旗は、白地に赤い円を置いた日の丸です。この国旗の赤と白は、しかし代表のユニフォームには用いられていません。そのいずれでもない青をメインカラーとして、いわゆる「サムライブルー」と呼ばれる色が採用されています。


この青がなぜ選ばれたのかについては諸説あるようで、公式に定まった一つの説明はありません。戦前の学生サッカーで使われた色に由来するという見方や、国土を囲む海と空を表すという解釈などが知られますが、いずれも確定したものではありません。
興味深いのは、国を代表する色が制度として定められたのではなく、長い時間をかけて文化的に共有され定着したという点です。旗という公式の記号の外側で、もう一つの「国の色」が育っていたとも言える興味深い例だと思います。
乖離型のカラー戦略②:王家の色をまとうオランダのオレンジ
オランダの国旗は赤・白・青の三色旗です。ところが代表チームの色は、旗にないオレンジが採用されています。


この色は、建国の祖ウィレム(オラニエ公)を出したオラニエ=ナッサウ家の家名と紋章に由来するとされています。実際、オランダの独立初期(16世紀後半)に用いられた「プリンセンフラグ」は、オレンジ・白・青の水平三色旗で最上段がオレンジでした。後に赤へと変更され、現在の三色旗に至りますが、オレンジは王家、すなわち国の成り立ちそのものを指す色として、国民の間に残り続けました。
日本の青が「出自の曖昧なまま文化的に共有されて定着した色」だとすれば、オランダのオレンジは「出自を明確にたどれる自国を象徴する色」です。同じ乖離でも、その背景は対照的です。
開催国のカラーとデザイン


開催国に目を向けると、メキシコは国旗の緑を、カナダは国旗の赤をそのまま代表色に用いており、いずれも配色のアプローチは一致しています。
一方アメリカは、赤・白・青という旗の色を使いながら、大会ごとにメインカラーが白や紺など変化を持つデザインとなっており、「可変型」とも言えるデザインです。今回大会のユニフォームは、赤色のボーダーを基調としながら、立体的な奥行きのあるグラデーションとうねりが表現されており、他の国とは一線を画したデザインアプローチである点も興味深いですね。

その他今大会の公式マスコット(カナダ=ムース、メキシコ=ジャガー、アメリカ=ハクトウワシ)も、それぞれ国旗からイメージできる色でまとめられています。
大会のブランドデザインの観点から見ると、国の色への意識は、より明確にわかりやすく設計されているようです(この点は FIFA 2026のブランドデザイン分析 でも詳しく触れています)。



まとめ:色は「在り方」から選ばれる
ここまでを整理すると、国の色には二つのレイヤーがあると捉えられます。国旗という「公式に規定された色」と、ユニフォームという「デザインされ、記憶される色」。両者は一致することもあれば、乖離することもある。そして乖離している色ほど、旗という表層の記号ではなく、王朝や歴史、もしくは長い時間をかけて定着していくような多様な来歴に根ざしていました。
この構造は、ブランドのカラー設計にも活用できるものだと考えます。ブランドにおける国旗にあたるのは、ガイドラインで規定された色。ユニフォームにあたるのは、顧客が実際に記憶する色です。両者は必ずしも同じではなく、また同じであることが正解とも限りません。
ブランドカラーを選ぶとき、「ロゴに使われているから」という理由だけで機械的に決めてしまうと、色は記号の後追いになります。より強い基準を共有し運用するには、事業の成り立ちや提供価値に立ち返ることが肝要です。
オランダ代表のオレンジが王家の歴史に由来するように、その色を選ぶ理由を企業自身の来歴や姿勢で説明できるかどうかです。色の根拠を一段深い層に持てると、競合が表面的に真似しても揺らがないブランドカラーになります。
ブランドカラーやCI/VIの設計は、在り方からデザインするBalloonでも中心的なテーマです。自社の色をどの層から選ぶべきか迷われている方は、ブランド戦略のご相談からお気軽にお問い合わせください。
FAQ
Q. なぜ日本代表のユニフォームは青なのですか?
A. 日本の国旗は赤と白ですが、代表ユニフォームは青(サムライブルー)を基調とします。青が選ばれた理由には諸説あり、戦前の学生サッカーに由来するという説や、海と空を表すという解釈などが知られますが、公式に確定した一つの説明はありません。国旗という公式の記号の外側で、文化的に共有され定着した色だと考えられます。
Q. オランダ代表がオレンジを使う理由は何ですか?
A. オランダの国旗は赤・白・青の三色旗で、オレンジは含まれていません。オレンジは建国の祖ウィレム(オラニエ公)を出したオラニエ=ナッサウ家に由来する色とされ、独立初期の旗にも用いられていました。現在の旗からは消えましたが、王家=国の成り立ちを指す色として国民の中に自国を象徴する色として残っています。
Q. ユニフォームの色は国旗と一致するのが普通ですか?
A. 一致する国もあれば、乖離する国もあります。ベルギーやメキシコ、カナダのように国旗の色をそのまま採用している国がある一方、日本の青やオランダのオレンジのように国旗にない色を代表色とする国もあります。一致・乖離・可変と、デザインのアプローチは多様です。
Q. ブランドカラーを決めるときは何を基準にすべきですか?
A. 「ロゴにあるから」ではなく、「その色を選ぶ理由を、自社の成り立ちや価値観で説明できるか」を基準にすることです。理由を深い層に持てる色ほど、模倣されても揺らぎません。
*記事内で使用したFIFA 2026ワールドカップのユニフォームの画像は、FIFA公式より引用しています。

