miroにみるリブランディング事例分析と考察

miroによるリブランディング事例分析と考察

ロシアにルーツを持つアメリカの Miro がリブランディングを実施。前回のリブランディングから4年という期間ですが、これまでのブランド資産を活かすかたちでのブランドデザイン刷新は功を奏しているようです。

Miroは2020年以降、リモートワーク普及の追い風を受け飛躍的な成長を遂げています。ユーザー数は2020年9月からの1年で(無料・有料ユーザーを合わせて)約800万人から約2500万人にまで増加。さらに2022年6月までには3500万人規模にまで拡大しています。日本でも2022年より日本語版がリリースされるなどオンラインホワイトボードサービスとしてよく知られていますね。

2022年1月には4億ドル(約538億円)の資金調達を発表、評価額はすでに175億ドル(約2兆3541億円)に達しています。そうしたスタートアップとして急激な成長を続ける最中でのリブランディングは、どういったアプローチで実施されたのかを見ていきます。

分類4_ワードマーク・文字

ロゴマークのデザインを類型化すると、4. Wordmarks(ワードマーク・文字)のデザインとなるでしょうか。若干分かりづらいのですが、黄色いアイコンのようなデザインはサービスの頭文字「m」をモチーフにした形状のようです。

ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。

急成長するスタートアップがめざすブランドのかたちと変遷

miroによるリブランディング事例分析と考察

機能を前面に押し出した説明的なサービス名称「Realtime Board」から、単なるオンラインホワイトボード以上のブランド拡張をめざした2019年のリブランディング。この時のリブランディングはオランダのデザイン会社 Vruchtvlees によるものです。

miroによるリブランディング事例分析と考察

ブランディングの観点からは、サービス名称を「Miro」という短い4文字に変更した点がもたらした大きさは無視できないでしょう。少なくとも一般名称の組合せ「Realtime Board」よりも、覚えやすく、記憶に残りやすい点のメリットは計り知れません。

元々のポストイットを模した黄色いアイコンは、よりはっきりとした色味に調整され、全体的に角度を付与された特徴的なデザインとなっています。ロゴタイプもベースラインやストロークの終端に12°という角度がつけられ、目を惹くデザインとなっています。

miroによるリブランディング事例分析と考察

この12°という角度の理由は、世界中にあるオフィスの位置をつなげた際にできる角度とのこと。あまり会社のオフィスの位置を確認することは無いように思います。どちらかというとインナーブランディング施策の一環ということでしょうか。今ではこれら以外にも東京やパリなど各国にオフィスが増えたため、あまり意味を成さなそうですね。

miroによるリブランディング事例分析と考察

今回のリブランディングでは、こうした(ともすると)不自然な角度は全て無くなりました。「miro」と書かれたロゴタイプのベースラインは水平になり、幾何学的な書体と同じようなディティールを持っています。

「r」を描く一本のストロークは、唯一前回のロゴタイプの特徴を備えた部分と言えそうですが、ブランディング全体としては、ユーザーとマーケットサイズの拡大に応じた、正統的な進化を遂げているのが分かります。

イラストの描き分けと世界観のブランディング

miroによるリブランディング事例分析と考察

本リブランディングは、AKQA と協力して実施されたものです。これまでのブランドアイデンティティを踏襲しながらさらに進化させています。

最も顕著な変更は、新しいイラストのスタイルでしょう。AKQA はこれによりブランドに「ダイナミズム」のレイヤーが追加されることを目指しています。更新されたイラストレーションは、より具体的な表現になり、立体感が増しました。

下図は、「人」と「ドローン」のそれぞれのイラストレーションのディティールを同じ縮尺で拡大したものです。有機物「人」の手や衣服、皺のラインは終端に行くにしたがって細くなり、抑揚が付けられています。一方無機物である「ドローン」は、ラインの太さは一定で、機械的な印象が目立ちます。

miroによるリブランディング事例分析と考察

実際に全体のイラストレーションを見ると、そうしたストロークの差は非常にわずかなものです。世界観を統一しつつ、対象による描き分けよって広がる表現の幅は興味深いですね。

miroによるリブランディング事例分析と考察

これらのスタイルの追加により、ブランディングの主な焦点であるアセットを通じて物語を構築することに集中できるようになったと言えます。

特に Miro と他業種の協業の可能性を強調するために、「ロボットによるアマゾン植林」や「自動輸送ソリューション」など、下のようなイラストレーションによって幅広いストーリーを伝えています。

miroによるリブランディング事例分析と考察

ユーザーの後を追いかける「矢印」のエレメント

miroによるリブランディング事例分析と考察

加えて、製品自体の UI を反映するアニメーション化された矢印が、ブランドのエレメントとして新しく導入されています。

同じボード上の共同作業者が、様々に色分けされた「矢印と名前」によって表示されます。上のように色相環から均等に配色されたカラーパレットは、ブランドカラーであるイエローをベースにうまく調和しています。

miroによるリブランディング事例分析と考察
miroによるリブランディング事例分析と考察

シンボルを囲む特徴的なイエローの矩形は、サイズに応じて角の丸み(R)が指定されています。あまり見かけないガイドラインですが、相対的な寸法で角Rを指定すると、拡大縮小によって必ず端数が出てしまうため、有効かもしれません。

具体的に算出してみると、小数点以下の端数を(偶数になるように)切っているようです。

miroによるリブランディング事例分析と考察

イラスト、矢印、カラーパレットなど全てが滑らかで洗練され、プロフェッショナルな印象を与えます。一方で「コラボレーション」という点からこれまで訴求してきた「楽しさ」や「親しみやすさ」からは距離を取ったようです。

全体としては正統的なリブランディング進化であり、汎用的もあるため他のSaaS製品との類似性も増したと考えられます。

*記事内で使用した「miro」のシンボルマーク・ロゴタイプのデザインおよび関連画像は、全て “Miro” より引用しています。

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