ブランドアイデンティティ構築 デザインのためのロゴマーク5分類

ブランド・アイデンティティ・デザインについて
ブランドを構成する要素のうち、最も重要なもののひとつが「ロゴタイプ」と「シンボルマーク」である。(それらはまとめて「ロゴマーク」とも呼ばれる。)
この「ロゴマーク」は、あらゆるアイデンティティ・システムの中心であり、ブランディング施策において欠かせないものである。
新たな組織やサービスのためにデザインされる「ロゴマーク」は、どのタイプのデザインが適切なのか。
「ロゴマーク」のデザインを大きく5つのタイプに分類し、それぞれの特長を比較することでブランド・アイデンティティ・デザイン開発における手がかりとしたい。
*2023年4月9日「Signature colors(シグネチャーカラー)」を追記しました。

ロゴマークデザインの分類について
ロゴマークのデザインタイプには、上記のように5つに大きく分類される。今回は比較的分類しやすい例を元に、Balloon独自の視点によるデザイン分類としてまとめている。(上記5つの分類の複数項目にまたがって、デザインされているブランドもあります。)
情報量が少なく、幾何学的なデザインの 1. Abstract から、右へ行くに従って、要素が多く情報量が増加している写実的な表現の 5. Emblems へと変化する様が見て取れると思う。
5タイプのデザインそれぞれの特長を見ていきたい。
1. Abstract(抽象的図形)

抽象的なシンボルは一般的にはシンプルで、プリミティブ(素朴)な図形の組合わせによってデザインされることが多いため、ほとんどの場合において言葉よりも効果的にアイデアを表現することができる。単純な図形の場合は、より記憶に残りやすく様々なスケールへの展開も容易と言える。
また、ビジュアルによるコミュニケーションに依拠しているため、言語による障壁が低く、世界共通で用いられやすい。そうした点からグローバル企業、グローバルマーケット進出を想定した企業等に最適と言える。
一方でシンボルの造形デザインからだけでは具体的な印象を結びつけにくく、このシンボルと一緒に、社名やサービス名を入れることで、ブランドの認知度とエクイティを構築していく必要がある。
2. Representational(具象的図形)

具象的図形は、具体的な対象物を図案化して描いたシンボルデザインを指す。企業やブランド、製品やサービスを体現するもの、あるいは顧客にもたらす利益をひとつの具体的なイメージに要約する。
社名やサービス名が、シンボルで表現された対象物と同一であるケース(Apple Inc.など)は稀で、シンボルが表す存在との直接的な関係性が無い場合も多い。そうした場合はストーリー性のある背景を同時に設計し、訴求する必要がある。
抽象的なシンボルよりも説明的であるため、認知度や独自性の向上に寄与する一方、 1. Abstract と同様、社名やサービス名を入れることで、ブランドの認知度とエクイティを構築していく必要がある。
3. Letterforms(レターフォーム・字形)

社名やサービス名、ブランド名の(主に)頭文字をベースにしたデザインを指す。1文字だけではなく、2文字以上の文字・記号を組みあわせるといったモノグラム*1も含む。
こうしたレターフォームのロゴデザインは、ブランド名が長い、発音しにくい、または複数の単語を持つ頭字語のブランド名などに用いられる。
加えて、認識を容易にし記憶に定着しやすくするために、単純な文字の形に何らかの装飾や要素を付与する場合も多い。こうした処理を行う事によって企業や組織の活動内容や属性が表現されオリジナリティの体現につながる。
*1:2つ以上の文字やその他の記号を重ね合わせたり、組み合わせたりして、1つの記号を形成した文様のこと。日本語で「組合せ文字」ともいう。
4. Wordmarks(ワードマーク・文字)

ワードマークは、会社名やブランド名を独自のテキストとして(多くは省略することなくフルスペルで)デザインしたものを指す。またコンビネーションマーク*2の一部として使用されるロゴタイプを指す場合もある。このワードマークタイプのデザインは認知度だけでなく、可読性についても考慮する必要がある。
ブランドの中には可読性を一部犠牲にしたようなスクリプトやサイン、家族の歴史や個人的なタッチを表現するデザインも存在する(例えば著名なファッションブランド、Salvatore Ferragamo などがそれにあたる)。こうした手法は、ブランドの出自や属性を示す場合に特に有効である。すなわち「言葉は意味を伝え、タイプフェイスは性質を伝える。」
*2:コンビネーションマークとはシンボルとロゴタイプを組み合わせて一つのマークとしてデザインされたもの。

5. Emblems(エンブレム)
標章・記章・紋章とも呼ばれる「エンブレム」は、観念または特定の人や物を表すのに使われるデザインを意味する。元来、神性・部族、国家・徳または悪徳といった抽象概念を視覚的な用語で具体化させたもので、対象または対象の対応物であるが、ここでは「エンブレム」的な造形・デザインを引用したビジュアルデザインを指して分類する。
エンブレムは、視覚的な形状の中に複数の要素が含まれている事が多く、紋章やバッジ、印鑑のような形にすると正統性の表現にふさわしい。一方で描かれる要素の数が多い事が多く、可読性が著しく低下するため小さいサイズでの使用に適さない。
そのため例えば、 Harley-Davidson のWebサイトでは、ヘッダー表示には文字要素を含まないエンブレム外形のみのデザインとする、といった展開を用いている。展開先のアプリケーションにおうじて、こうした対応が必要である。

6. Signature colors(シグネチャーカラー)
最近では、特にファッションの分野を中心に、ブランドのアイデンティティを確立するためにカラーを活用する例が見られる。そのブランドを象徴するカラーを「シグネチャーカラー」として定め、一貫性のあるイメージを表現することで、ブランドの認知度や信頼性を高めるねらいだ。
よく知られるのはTiffany & Co.による「Tiffany Blue(ティファニー・ブルー)」だろう。この鮮やかなブルーが色の商標として登録されたのは1998年、ブランド専用のカスタムカラーとしてPANTONE社によって標準化されたのは2001年である(「1837ブルー」)。
2021年にはBottega Venetaによる「Bottega Veneta’s parakeet green」、2022年には同じくファッションブランドのValentinoによる「Valentino Pink PP」がブランドのシグネチャーカラーとして展開された。
もともと自然界には無数に存在するはずのものを、多様なシーンで定量的に扱えるよう分類された「色」。こうした観点からは共有材としての側面も無視できない。
近年一部のブランドが取り入れている「シグネチャーカラー」によるブランディングの今後の動向を注視する必要があるだろう。
おわりに
ロゴマークのデザインは、新しいビジネスやサービスの期待感を生むことはできるが、すでに形成されたユーザーの考えや行動を大きく変えることは困難だ。そこに本物の関係性や意味を持たせられるのは、その組織が提供する製品やサービスそのものであり、それに代わるものは無い。
だが、優れたデザインというものは、人の目に留まりやすく記憶に残りやすい。加えてそのデザインが意味するところを素早く明確に伝達することができる。そうした人が接するあらゆる場所・時間において、統一された「世界観」のデザイン表現は極めて重要である。デザイナーが組織のブランディングデザインに寄与できるのは、まさしくこの点である。
ブランディングデザインの要である「ロゴマーク」は、スマートフォンの中のわずか数ピクセルで描かれた場合でも、建物や看板に表示された場合でも、同じように「ブランド」として認識され、その独創性を発揮しなければならない。そうしたスケールに対する視点以外にも、デジタルの世界と実際の世界の両方で、また今後何十年の社会環境の変化に耐えうる耐久性を兼ね備えている必要がある。
一方で、デジタルデバイスの進化に伴うタッチポイントの増加に対応した、柔軟で展開可能性の高いブランド・システムも見られるようになった。
ブランド開発を実施するにあたり、組織やサービスの特長をとらえ、どういったアイテム、チャネルへアプリケーションを展開するか、といった部分を明確にすることで、その組織の独自性をともなったデザインが生み出せると考える。
ブランドとは、あくまでその組織活動の表出であり、あらゆるブランド・アイデンティティ・デザインは、そこを起点に始まるべきである。
「ロゴには、ロゴが表している香水以上の香りはない」 ポール・ランド
4. Wordmarks(ワードマーク・文字)で取り上げたIBMのロゴタイプについて、ひとつのバリエーションであるアウトライン化を取り上げ、統一した世界観のデザインについてその詳細分析についてはこちらの記事にまとめています。「IBMブランドにみるアウトラインロゴの分析と再提案」
*記事内の全てのシンボルマーク、ロゴタイプおよび関連する画像は、全てそれぞれの会社、組織に帰属します。
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