NOKIAブランドロゴ刷新事例 グリッド分析と考察
フィンランドのエスポーに本社を置く1865年創業のNOKIA (ノキア)。2011年までは世界最大の携帯電話端末メーカーであったが、その後業績が悪化、2013年にはマイクロソフトが携帯電話事業の買収を実施し、現在はコンシューマー向けの携帯電話の製造は行っていない。
2023年2月にバルセロナで開催された「モバイル ワールド コングレス 2023」において、ニューヨークを拠点とするLippincottによる新しいブランドアイデンティティを発表。
1978年にデザインされた旧ロゴタイプから、ブランド名称をそのままワードマークとして使用しており、今回のリブランディングでは、よりシャープに幾何学的なデザインとなっている。
ロゴマークのデザインは、4. Wordmarks(ワードマーク・文字)に分類できる。ワードマークのデザインスタイルは、家族の歴史や個人的なタッチを表現するデザインも多く、こうした手法はブランドの出自や属性を示す場合に特に有効と言える。
ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。
NOKIAブランドのロゴタイプデザインについて
今回のリブランディングでは、ロゴタイプ全体のウェイトが細くシャープになり、エッジが強調された非常に幾何学的なものへ変更された。
1978年から40年以上親しまれてきた旧ロゴタイプの横に広いプロポーションと太いウェイトのデザインと比べると、その違いの大きさがよく分かる。
大きな印象の違いは主にロゴタイプを描くストロークの太さによるものと考え、どの程度の差異があるのかを分析したものが以下である。
旧ロゴタイプはキャップハイト(大文字の高さ)を基準に「30%」のストローク幅となっている。
各文字のグリフ(字形)に応じて視覚補正が施されており、「O」の水平ストロークの「25%」から、「I」の31%まで5〜6%程度のレンジで調整されていることが分かる。
「O」は上下に水平のストロークが一定距離で描かれているものの、グリッドからわずかにせり出させる補正が興味深い。
新しいロゴタイプは、旧デザインと比較して「15%」と、実に半分程度のウェイトで描かれる。
「O」も真円に近付き、エッジを立たせるなど幾何学的なデザインを志向しているのが見て取れる。
「N」と「K」の斜線の角度は対称で、「O」を中心とした対称性を考慮しているようだ。
また「N」「K」「A」の字形の一部をカットすることでよりシャープな印象になる一方、可読性の低下が気になる点でもある。
キャップハイトを揃えて比較した新旧のデザイン。
こうしてみると新しいロゴタイプは慣れ親しんだ旧来のものと比べて変更幅が大きく、ストロークのウェイトが細くなったことによって弱々しく、華奢な印象に感じられる。
NOKIAブランドのアプリケーション展開
ブランドサイトではコンセプトムービーやサイン、展示会ディスプレイのデザインなどのアプリケーション展開を確認できる。
コンセプトムービーに見られるオブジェクトに対してロゴタイプの一部が重なるような表現は、幾何学的なデザインとうまく調和している。
一方で文字を大胆にカットしたため、ここでも可読性の面からは懸念があり、文字が空中で分解されそうな印象すらある。
また、カラーパレットはどの色相も彩度・明度が高く、(個々のカラーは綺麗だが)アイデンティティを支えるメインのカラーが判別しづらい。
そのため、それらのカラーを同列に扱ったような展示会(下写真)では、コントラストが強くカラー間の調和がなされておらず、ロゴタイプのようにバラバラな印象が拭えない。
ロゴタイプのウェイト試案
弱々しい印象をどのように回避するか、試案として新しいロゴタイプのウェイトを太くしたものを上に示す。
実際は旧ロゴタイプの半分の細さ(15%)となっているが、上の試案では20%とし、新旧の中間のストロークによって描いたデザインを比較した。
またレタースペースもさらに詰めることで、文字同士のつながりを強め一体的な表現としている。
こうしたディテールの調整は、全体的な印象をコントロールする余地もあると想像する。
おわりに
NOKIAは“Create technology that helps the world act together”という新しいパーパスを制定した。
文字の一部をカットすることでロゴタイプの要素を際立たせ、隣接する要素同士の関係性によって「NOKIA」ブランドが完成するというアイデアは、このパーパスのコンセプトを補強するアプローチとして非常に有効だと考える。
一般的にBtoB企業のブランドは、信頼性を高めることを目的にしたアプローチを採用することが多い中、NOKIAブランドは逆にイメージ刷新に踏み切ったことで注目を浴びている。今後、この戦略がどのような展開を見せるのか、注目が集まるところである。
*記事内で使用した「NOKIA」ブランドマーク・ブランドシンボルおよび関連画像は、全て “NOKIA” より引用しています。
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