パビリオンに求められる「優しさの設計」:ユニバーサルデザインの本質と7つの原則

2025年9月6日、関西文化学術研究都市の中核的交流施設、けいはんなプラザで開催された第83回KNS(関西ネットワークシステム)定例会にて、「パビリオンにおけるユニバーサルデザイン」をテーマに登壇しました。
万博などの大規模な催事において、多様な背景を持つ人々が訪れるパビリオンには、どのような「配慮」と「設計」が求められるのか。UDの定義やバリアフリーとの違い、そしてデザインが果たすべき役割について、講演の内容を振り返ります。
ユニバーサルデザインとは?「すべての人のため」の思想

ユニバーサルデザイン(UD)とは、一言で言えば「すべての人のためのデザイン」です。
年齢、性別、国籍、文化、言語、そして障害の有無にかかわらず、できるだけ多くの人が利用可能であるように最初から計画する設計思想を指します。
パビリオンのような公共空間では、特定の誰かのためではなく、訪れるすべての人に等しく快適な体験を提供することが求められます。
「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」の決定的な違い
よく混同されるこの2つの言葉ですが、そのアプローチは大きく異なります。
バリアフリー: 障害者や高齢者など、特定の対象者が直面する「障壁(バリア)」を後から取り除くこと(事後的・個別的)。
ユニバーサルデザイン: あらゆる人が使いやすいように、最初から障壁を作らないように設計すること(先行的・包括的)。

「後から直す」のではなく「最初から誰もが使いやすい形を追求する」のがUDの本質です。
実践のための「ユニバーサルデザイン7原則」
講演では、UDを形にするための具体的な指針として、以下の7つの原則を紹介しました。
✔️ 公平性: 誰でも公平に入手、利用できる。
✔️ 自由度: 多様な好みや能力に合わせて、利用方法を選べる。
✔️ 単純性: 使い方が簡単で、直感的にわかる。
✔️ 情報処理性: 必要な情報が、誰にでもすぐに理解できる。
✔️ 安全性: ミスをしても、危険につながらない。
✔️ 省体力性: 無理な姿勢をとらず、楽に使える。
✔️ 空間確保性: 誰でも移動しやすく、使いやすい広さがある。

パビリオンにおけるUDの実践例:ドイツパビリオンの「音」の設計
UDの原則を高いレベルで実装していた事例として、ドイツパビリオンの試みが挙げられます。 特筆すべきは、来場者一人ひとりに渡されるデバイス「サーキュラー」を用いたパーソナルな音声ガイドの設計です。展示のタッチポイントにデバイスをかざし、口元に耳を近づけると、自分だけに向けられた解説が流れます。 隣の人には聞こえない絶妙な音量設計により、周囲の環境音や空間の雰囲気を損なうことなく、親密な情報体験を提供していました。これはUD7原則の「公平な利用」や「わかりやすい情報」を、テクノロジーによってプライベートな体験へと昇華させた素晴らしい例と言えます。
他の例としてはトイレのピクトグラムや多言語サイン、オストメイト対応トイレ、ジェンダーレストイレの設置などが挙げられます。これらは特定の人のためだけではなく、結果として利用者全員の利便性を向上させます。

デザインが創る「未来へのキャンバス」

ユニバーサルデザインは、単なるルールや規則ではありません。それは、私たちが未来に向かって描く「優しさのキャンバス」です。パビリオンという特別な場所を通じて、誰もが排除されない、開かれた社会のあり方をデザインの力で示していく。それこそが、デザイナーに課せられた使命だと考えています。
「ドイツパビリオンの展示デザインや、ユニバーサルデザインのさらなる詳細については、こちらのレポートにまとめています。
✔️ ドイツパビリオンとユニバーサルデザインの魔法
執筆者プロフィール:志水 良(Shimizu Ryo)
Balloon Inc. CEO / アートディレクター
OUZAK Design、キーエンスでのデザイン経験を経て、現在はブランディング、UI/UX、工業デザイン、グラフィックデザインまで幅広くカバー。JAGDA・JIDA正会員、German Design Award、A’ Design Award、Graphis Brandingなどを受賞。TEDx Kyotoへの参画など、デザインを通じた社会実装を推進している 。
・Balloon Inc. 公式サイト: lloon.jp





