「誰一人取り残さない」をどうデザインするか?
2025大阪・関西万博を支える防災ユニバーサルデザインの全記録 — BUD開発プロセス

防災手帳の制作依頼から、社会を変えるプロジェクトへ
「万博で使う防災手帳を作ってほしい」最初の依頼はとてもシンプルなものでした。
2025年大阪・関西万博において、日本語を母国語としない来場者のための防災手帳。有事の際のコミュニケーションツール。それが、プロジェクトの出発点でした。
しかし、私たちBalloon Inc.は、この依頼を受け取った瞬間に、ある問いを立てました。
「本当に、それだけでいいのか?」
防災手帳を配布すること。それは確かに重要です。しかし、有事における被害を最小限に抑えるには、発災後の対応だけでは不十分です。
私たちが目指すべきは、平時から防災意識を高め、社会全体の防災力を向上させることではないのか。
この問いかけから、BUD(BOSAI Universal Design)プロジェクトは、単なる「防災手帳の制作」を超えた、より大きなビジョンへと進化していきました。
課題
「防災」を、どう「自分ごと」にするか
防災の本質的な課題
日本は防災大国と言われます。しかし、実際には多くの人が「防災は大切」と知りながら、日常的に防災意識を持ち続けることは困難です。
特に、防災にまつわる課題には以下のようなものがありました。
✔️ 防災情報は「堅苦しい」
行政が発信する防災情報は正確ではあるものの、一般の人々にとっては親しみにくい。
✔️ 防災は「他人事」
災害が起きていない平時において、防災を「自分ごと」として捉えることは難しい。
✔️ 多様性への対応が不十分
外国人、高齢者、障がいのある方など、多様な背景を持つ人々への配慮が欠けている。
これらの課題を解決するためには、単なる「情報提供」を超えた、人々の行動と意識を変えるアプローチが必要でした。
アプローチ:
プロジェクト全体のビジョンとロードマップを描く
全体像の可視化から始める
私たちは、まずプロジェクトの全体像を一覧できるプロセス図を作成しました。

このロードマップには、以下のフェーズが含まれています。
1. ビジョン策定(何を目指すのか)
2. ブランド開発(どう伝えるのか)
3. コンテンツ制作(何を作るのか)
4. イベント企画(どう巻き込むのか)
5. 運用・改善(どう育てるのか)
これをチーム全体で共有することで、メンバー全員が「なぜこれを行うのか」を理解し、同じゴールに向かって進むことができました。
BUDアクションマップの制作
さらに、私たちはBUDアクションマップを制作しました。

このマップは、BUDの活動全体を俯瞰し、以下の要素を統合したものです。
ゴール:防災意識の向上
アクション:デザインコンペティション、防災フェス、SNS発信
ターゲット:一般市民、外国人来場者、防災関係者
このマップを常に参照することで、個別の施策が全体のビジョンとどう繋がっているかを確認しながら、プロジェクトを進めました。
プロセス1:
シンボルマークで「旗印」を立てる
なぜシンボルマークが必要か
BUDの活動を進めるにあたり、多くの協力者を巻き込むことは不可欠でした。
そのために必要だったのは、活動の「旗印」となる象徴的なマークです。
シンボルマークは、単なるデザイン以上の意味を持ちます。それは:
✔️ 私たちの強い決意の表れ
✔️ 協力者との連帯を深める絆
✔️ 防災への意識を高めるきっかけ
シンボルマークのデザイン

シンボルのモチーフは、「つぼみ」「星」「Bという文字」「円環」です。
1. つぼみ(BUD)
BUDは花のつぼみを意味する単語で、防災(Bosai)ユニバーサル(Universal)デザイン(Design)の頭文字と同じ綴りです。これから花開いていくつぼみを、私たちの活動の象徴としました。
2. 星(道しるべ)
四隅に鋭い角を持った造形は、星のモチーフとしても認識されます。星は旅人にとっての道しるべであり、私たちの目指すゴールを示す旗印です。
3. Bの文字
BUDの「B」であると同時に、BOSAIの「B」でもあります。この二重の意味を持った「B」が視認できるデザインとしました。
4. 円環(統合)
円環によってこれらの要素を統合することで、マークとしての使いやすさや視認性に配慮しました。
ブランドガイドラインの策定

シンボルロゴを多くの人に正しく使ってもらうため、ブランドガイドラインを策定しました。
✔️ 最小サイズの規定
✔️ 余白の確保
✔️ 使用禁止例の明示
これにより、ブランドイメージを毀損することなく、すべてのメンバーが多様な場面でシンボルを活用できるようになりました。
プロセス2:
SNSで活動を「見える化」する
継続的な情報発信
BUDの活動を対外的に発信するため、note、Facebook、X、Instagramなどの主要SNSアカウントを開設しました。

発信内容:
✔️ 設立趣意書とビジョン
✔️ 防災イベント参加レポート
✔️ シンボルマークの成り立ち
✔️ チームメンバーの想い
継続的に記事化することで、「常に活動している様子」を伝え続けました。
プロセス3:
防災ハンドブックのデザイン — ユニバーサルデザインへの挑戦
配布対象の転換
当初の計画では、来場者向けに手帳を配布する想定でした。しかし、万博協会との協議を重ねた結果、現場のスタッフ向けに配布する手帳を制作する方針に転換しました。
主だった理由は以下のようなものです。
有事の際、外国人来場者と言葉が通じなくても、スタッフがコミュニケーションを図れるようにする
「消防・防災」と「医療・救護」の2種類に特化することで、より実用的なツールとする
ピクトグラムによる多言語対応
また、万博という多くの国の人々が訪れるイベントのため、言葉の壁を越えるため
✔️ 言語に頼らず、直感的に理解できる
✔️ 国籍や文化背景に関わらず、共通認識を形成できる
✔️ 緊急時の迅速な情報伝達が可能
ピクトグラムを、コミュニケーションの中心として採用しました。
国際規格に基づいたデザイン
ピクトグラムのデザインにあたり、私たちはISO 3864(図記号-安全色及び安全標識)を参照しました。

以下のようなデザインの原則をベースに、実際のサイズで検討しながらデザインを進めていきました。
✔️ 形状と色の組み合わせで意味を明確化
✔️ 文化的に中立なデザインを採用(例:赤十字ではなく、より普遍的なシンボルを使用)
✔️ 記号論的アプローチで解釈のずれを最小化
プロセス4:
情報設計とページネーション
既存の知見を活用する

国内の自治体や各団体が発行する防災関連情報には、多くの知見が含まれています。私たちは、特に国内の様々な自治体が発行する外国人向け防災情報を参考にしながら、情報の優先順位付けやページ構成の最適化、視認性の確保といった検討を繰り返し行いました。
手で掲げる「SOS発信」デザイン

デザインの意図:
✔️ 手帳を高く掲げることで、遠方の来場者にも緊急状況を伝達
✔️ ページ全体を赤色で塗りつぶし、緊急性を視覚的に表現
✔️ モールス信号を補助情報として付与
スケールのデザイン表現

指差しで段階を示す「スケール」のデザインは、言葉を介さないコミュニケーションにおいて非常に有効です。
統一されたルールに基づいて表現することで、どのページを開いても直感的に理解できるよう工夫しました。
プロセス5:
人間工学に基づいたピクトグラムサイズの検証
指のサイズを基準にした設計

ピクトグラムのサイズは、人間工学データに基づいて決定しました。
設計基準
✔️ 成人男性の人差し指の幅(第2指爪中央指幅):18~23mm
✔️ この数値を基準に、ピクトグラムの抽象度とモチーフの特徴のバランスを検討
子どもから高齢者まで、多様な体格の人に対して適切なサイズで理解してもらうため、何度もプロトタイプを試作し、実際の人々の反応を確認しながら調整を重ねました。
デザイングリッドの構築
全てのピクトグラムは、緻密に設計されたデザイングリッドを基盤として構築されます。
このグリッドは:
✔️ デザインの形式的連続性を保つ
✔️ 視覚的なリズムを生み出す
✔️ 複数の階層を持つ単位で構成
基本となる正方形の「単位」は、さらに均等な副次グリッドによって5つに分割され、高い精度でのディティール調整を実現しました。
デザインアウトプット:
完成した防災ハンドブック
2種類の手帳デザイン

「消防・防災」と「医療・救護」の2種類の手帳は、カラーリングによって一目で区別できるようにしました。
デザインの特徴:
✔️ 万博のデザインテイストとの整合
✔️ 情報提示の「距離感」を段階的に設定
✔️ 書体サイズの明確な階層化
情報提示の距離感設計

情報を提示する際の「距離感」をあらかじめ設定することで、以下を実現しました。 遠距離:SOS発信(ページ全体を赤色) 中距離:カテゴリ分類(大きなピクトグラム) 近距離:詳細情報(小さなピクトグラム+テキスト)
このプロジェクトから得られた知見
「社会を変える」ためには、ビジョンの共有が不可欠
BUDプロジェクトを通じて、私たちが改めて確信したのは、「デザインは、ビジョンから始まる」ということです。
単なる「防災手帳の制作」ではなく、「防災意識の向上」という大きなゴールを設定したことで、プロジェクトは以下のように進化しました。
✔️ シンボルマークの制作
✔️ デザインコンペティションの開催
✔️ 防災フェスの企画
✔️ SNSでの継続的な情報発信
これらは全て、「防災を自分ごとにする」というビジョンから生まれた施策です。
ユニバーサルデザインは、「誰一人取り残さない」という決意
ユニバーサルデザインは、単なる「多様性への配慮」ではありません。それは、「誰一人取り残さない」という強い決意の表れです。
BUDプロジェクトでは、以下のような多様な人々を想定してデザインを行いました。
✔️ 外国人来場者
✔️ 子ども・お年寄り
✔️ 障がいのある方
こうした多様性を前提としたデザインは、結果として、すべての人にとって使いやすいデザインになります。
デザインは、「育てる」もの
BUDプロジェクトは、防災ハンドブックの完成で終わりではありません。
実際に万博で使用され、フィードバックを受け、改善され、「育っていく」ものです。そのため、私たちは運用フェーズでの柔軟性も考慮し、ガイドライン整備やSNS運用体制を構築しました。
Balloon Inc. だからできること
ワンストップだから実現できる、統合的なプロジェクト運営
Balloon Inc.は、以下の全てを社内で完結できる体制を持っています。
✔️ ブランド戦略の立案
✔️ ビジュアルデザイン
✔️ イベント企画・運営
✔️ SNS運用
✔️ Webサイト制作
これにより、BUDプロジェクトのような複雑で多岐にわたる施策を、一貫したビジョンのもとで実行することができました。
国内外デザインアワード受賞の品質基準
BUDのブランド開発は、GRAPHIS Design Annual 2026でSilver Awardを、Asia Design Prize 2026でWinnerを受賞しました。(Asia Design Prize の受賞に関するプレスリリース(PR TIMES)はこちら)
私たちが目指すのは、国内外のデザインアワードで評価されるグローバル基準の品質です。
単に「見た目が良い」だけでなく、社会的に意義があり、機能的に優れたデザインを提供します。
このプロジェクトのデザインについては以下のデザイン実績にもまとめています。
あなたの事業を、社会を変える力に
「社会課題の解決」が、ブランドになる時代
もしあなたの会社が、以下のような状況にあるなら、デザインによるブランド開発がお役に立てるかもしれません。
✔️ 社会的な意義のある事業を立ち上げたい
✔️ 多様な人々を巻き込むプロジェクトを進めたい
✔️ 技術やサービスを「社会に届ける」方法が分からない
BUDのように軸となるビジョンを定義し社会を巻き込む力に変えることで、あなたの事業は次のステージへ進むことができます。
Balloon Inc.は、大阪・グランフロント大阪を拠点に、ブランド戦略からデザイン実装、イベント企画まで、一貫したサポートを提供しています。
あなたの事業が持つ社会的な意義を、一緒に言語化し、デザインに落とし込む。
そのプロセスを、私たちと一緒に歩んでみませんか?
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