「回答」ではなく「補助線」:デザインの解像度を一段上げるAIとの距離感

2026年3月7日、大阪で開催されたAI Playground@Osakaにて、デザインの解像度を一段上げるAIとの距離感というテーマで登壇しました。
生成AIの急速な普及により、デザインの現場は大きな変革期にあります。しかし、AIに「答え」を求めてしまうと、デザインは表層的な平均値に収束してしまいがちです。
今回のLTでは、AIを「回答機」としてではなく、思考の解像度を上げるための「補助線」として活用する、Balloon Inc.としての向き合い方についてお話ししました。(crossroads inc. のイベントページにも掲載いただきました。)
デザインアセットの耐久年数とAIの相性
デザインにおけるAI活用を眺めた時、最初に整理すべきと考えたのは私たちが作るデザインアセットには耐久年数という概念があるということです。
AIをどのデザインに活用すべきかは、そのアセットがどれだけの期間使われるものかによるものでは、というのが今回の仮説の核となるアイデアです。
まずブランド資産ともいえるデザインアセットについて、どのようなものがあり、それぞれ活用されるおおよその期間の比較をまとめたものが以下の図です。

短期的な「戦略的支援物」と長期的な「基幹資産」
2026年3月の段階で利用可能な生成AIのサービスを使ってみると、そのアウトプットのクオリティに明確な傾向があるように思います。要素が多く、あしらいやテクスチャーが多層的に配置されるようなグラフィックには非常にその性能を発揮します。
一方で、抽象度の高いシンプルな造形が求められる、ブランドのシンボルデザインといったテーマの場合、とたんに期待したクオリティから離れた結果を出力します。文脈や修正プロンプトを繰り返すといった操作を重ねても、「削ぎ落とす」という作業に対しておよそ適切な結果を手に入れることはできません。
それぞれのデザインアセットに対する相性を加えると、下図のようなイメージではないでしょうか。

それぞれのアセットと、AI活用については以下のようにまとめました。
戦略的支援物(1日〜数ヶ月)
広告バナー、SNSクリエイティブ、特設LPなど。流行やキャンペーンに合わせて消費されるこれらは、AIによる高速な生成と相性が非常に良い領域です。
運用資産(6ヶ月〜1年)
UIコンポーネント、イラストレーション、資料テンプレートなど。一貫性が求められるため、AIによる効率化と人間のディレクションが共存する領域です。
基盤資産(1年〜)
デザインシステム、イメージのトーン&マナー、情報アーキテクチャなど。これらは、単発の制作物ではなく、ブランドが中長期的に発信し続けるための仕組みやルールにあたります。人間が設計した軸を外さずにAIに網羅的な作業や検証を委ねることで、強固なブランドの基盤を効率的に構築することが可能になります。
基幹資産(5年〜10年以上)
シンボルマーク、ブランドカラー、ロゴタイプなど。企業のアイデンティティを司るこれらは、AIが導き出す平均値ではなく、深い洞察と戦略的な意図が不可欠な「人間が担うべき領域」と言えます。なぜなら、そこには企業の歴史や創業者の想いといった、データ化されていないコンテキストの解釈が必要だからです。
AIは「速さ」を武器にする領域で最大の力を発揮しますが、ブランドの「根幹」を作る場面では、あくまで思考を深めるための道具として使うべきでだと考えます。
概念探索フェーズにおけるAIの役割:思考の広がりを作る
デザインのプロセスにおいて、最もAIの恩恵を受けられるの概念探索(コンセプト・メイキング)のフェーズです。
ここでは、AIを「回答」を得るためではなく、人間の思考の癖(バイアス)を外すための補助線として活用します。
文化・哲学・技術・歴史を横断する
例えば、新しいモビリティのブランディングを考える際、AIを使って「移動」という概念を多角的に掘り下げた結果が以下のスライドです。
人間の持つ知識はどうしても偏ってしまうものですが、なるべく網羅的にさまざまなキーワード出しを行うため、以下のような4領域を定めて出力してもらいました。

・文化:15分都市、スマートシティ、ノマド
・哲学:ホモ・モビリス(移動する人)、移動の権利、静止する権利
・技術:V2X、デジタルツイン、ラストワンマイル
・歴史:シルクロード、T型フォード、身体の拡張
このように、AIに文化・哲学・技術・歴史といった複数の視点からキーワードを抽出させることで、人間一人の脳内では結びつかなかった意外な道筋が見えてきます。
AIを使いこなすための視点
AIとの共同作業は、いわば「共創」です。AIから出力された言葉や画像を見て、そこから何を感じ、どの方向に解像度を上げていくかを判断するのは、どこまでいっても人間の仕事です。
講演では、AIが出した多くの候補の中からブランドの指針となる言葉を見つけ出し、それをシンボルデザインやロゴタイプへと昇華させていくプロセスを紹介しました。
AIは無限の可能性を提示してくれますが、そこに意味を与え、ブランドとしての人格(パーソナリティ)を吹き込むのはデザイナーの感性に他なりません。

おわりに:デザインの解像度を上げるということ
AIを活用することで、私たちはこれまで以上に広大な「概念の海」を探索できるようになりました。しかし、情報が増えれば増えるほど、何が本質かを見極める力、つまりデザインの解像度が問われるようになります。
AIという強力な「補助線」を使いこなしながら、その先にある「回答」を自らの手で描き出す。Balloon Inc.は、これからもテクノロジーと感性の高度な融合を目指し、価値あるデザインを追求していきます。
AIが導き出す平均的な性格を超え、独自の人格を設計する方法については、
ブランド定義の類型化についてまとめたこちらの記事をご覧ください。
✔️ 「選ばれる理由」の作り方ーブランディングとデザインについて
執筆者プロフィール:志水 良(Shimizu Ryo)
Balloon Inc. CEO / アートディレクター
OUZAK Design、キーエンスでのデザイン経験を経て、現在はブランディング、UI/UX、工業デザイン、グラフィックデザインまで幅広くカバー。JAGDA・JIDA正会員、German Design Award、A’ Design Award、Graphis Brandingなどを受賞。TEDx Kyotoへの参画など、デザインを通じた社会実装を推進している 。
・Balloon Inc. 公式サイト: lloon.jp


