美術館プロダクトのデザイン分析 | MIHO MUSEUM 観察スケッチ
1997年11月に、世界的な建築家、I.M.ペイ氏により設計された MIHO MUSEUM 。
桃源郷のイメージで、「自然と建物と美術品」「西洋と東洋」の融合をテーマに、
8割を地中に埋設したユニークな設計の建築。
建築だけでなく、施設に設置されたプロダクトのデザインも素晴らしいものでした。
その中でも特に素晴らしいデザインを観察し、スケッチにまとめました。
エントランストンネルと明かりのデザイン
イオ・ミン・ペイ設計の MIHO MUSEUM は、景観を考慮した建築物だけでなく、
照明や傘立てに至るプロダクトなど至る所に気を遣ってデザインされていた。
このスケッチはエントランスから美術館本館へ繋がるトンネルを描いたものである。
来場者は施設内専用の電気自動車か徒歩で移動するが、
入口からは出口が見えない様にゆるやかなカーブを描いていて、
出口にたどり着くまで本館の建物をいかに演出的にみせるかという工夫がなされている。
円形の照明は、そのトンネルの中左右に一定間隔で設置されている。
梨地の表面処理がなされたアルミは、板材を曲げて溶接してつくられており、
プリミティブなデザインでありながら、ほのかに照らす明かりが洞窟を思わせるような雰囲気を出す。
突き出た円筒の直径はおおよそφ160mmで一回り外側の円が650mm程度。
外側の円は視覚補正のためか、中心が少し上へずらして配置してある。
単体のプロダクトとしてみても、完成度が高く、美しい。
360°デザインされた傘立て
美術館の本館入り口両サイドにある傘立ては、
円柱状でφ600mm、高さ700mm程度のサイズ感で設計されている。
この傘立ての興味深いコンセプトは、
離れた距離からみると単なるアルミの筒にみえる点だろう。
晴れた日には景観を邪魔しない、シンプルなオブジェとして機能していると言える。
傘立てとして2つの機能があり、誰でも持ち出せる貸し出し用の傘のストックを入れるためのものと
ロックのついた来場者用の傘立てに分かれる(内側の外周部分)。
また、上からのぞき込むと内側に向かって斜面がとられていて傘の出し入れに配慮されている。
外側のアルミのパーツは大きいため、90度ずつに四分割されている。
各パーツの間には樹脂パーツがあり、クリアランスの確保、寸法の調整を行っているようだ。
大階段のデザイン
MIHO MUSEUM本館内にある美術館入り口へ続く階段。
中央に展示内容の案内があり、12段程度の階段を上って美術館へ入る。
大理石でつくられた階段両側の壁にあるスリットは、
下側部分が大きくRがとられていて、手すりになっている。
一見すると、照明が設置された階段にある壁のように見えるが、
近づいてみると、適切な高さにスリットが設けられており、
上り下りの際に手すりとしての役割を果たしてくれる。
これに近い設計だと、Apple 京都の手すりだろうか。
上記の傘立てと似たコンセプトで、遠い距離から見た時にわかりやすい機能性の造形を排除し、
シンプルでありながら、必要な人には適切な機能を提供する素晴らしいデザインだと思う。
カフェのお水の容量までデザインが行き届いている
MIHO MUSEUMに併設されたカフェのグラス野デザイン。
サイズや容量は一般的なものだが、オリジナルのロゴをあしらってある。
全高から八割程度の高さに、「m」というマークが金の印刷で水平に配置されている。
そのうち一つだけは青い四角で囲われ、マークと中心揃えで「MIHO MUSEUM」の表記を伴っている。
驚いたことに、最初に出される水の量が、マークの高さを基準に全て揃っている。
デザインとして美術館のシンボルを訴求しつつ、同時に同じ容量の水を提供するための目印になっている。
カフェの運用までをデザインしている徹底ぶりが印象的。
構造を美しくみせるデザイン
MIHO MUSEUMエントランスと本館を繋ぐ橋。
橋を吊り下げる為のアーチ状の構造体の弧に合わせて、
両側の手すりも同じ曲線を描く様に曲面をつくっている。
束柱や地覆も同様の弧状の処理が施されており、
目線を手すり近くにすると、弧がひとつながりにも見える。
手すりの面にはφ5mmほどの穴が60°千鳥型でパンチングされていて、
正対して立つと、ぼんやりと向こう側が透過して見える。
周囲の自然の色味を完全に隠さず、うまく調和したデザインと言える。
おわりに
MIHO MUSEUM に設置されたプロダクトのデザインについて観察・分析してきました。
訪問者の動線設計や建築物・空間という大きなスケールから、
手で持って近付いて使うようなコップまで、
あらゆるスケールにおいて、品質の高いデザインが実現されている点が非常に印象的でした。
そうした要素のひとつひとつが、
「MIHO MUSEUM」というブランド、世界観の表現に欠かせないという事が
実際に体験できる貴重な場だと思います。
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