米国オリンピック&パラリンピックミュージアムのブランドロゴ事例 グリッド分析

米国オリンピック&パラリンピックミュージアムのブランドロゴ事例 グリッド分析

2020年秋、コロラドスプリングスのパイクスピークの麓に、米国オリンピック&パラリンピックミュージアム(以下USOPM)がオープンした。本リサーチではこのシンボルとロゴタイプのブランディング事例を取り上げる。

ピエール・ド・クーベルタンによるオリンピック・リングは、五大陸とその相互の連帯を抽象化したデザインで知られる。この、すでに「抽象化」されたデザインを、アスリートのエネルギー、ミュージアム建築のテクスチャーといった観点から再解釈によって改めてデザイン・リブランディングした。五輪というすでに固定化されたイメージを踏襲しつつ、新しいアイデンティティを構築した、シンプルで力強いデザインは素晴らしい。

ロゴマークのデザインを類型化すれば、1.Abstract(抽象的図形)のデザインとなるだろう。勢いのある斜めのストライプが聖火台の炎を抽象化し、五輪のカラーリングを施すことで独自のアイデンティティを表現している。ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。

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新たな五輪の象徴を体現するコンセプト

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上のイメージは、今回のブランディングコンセプトを一枚でまとめた非常に興味深いものだ。デザインの着想をどこから得て、どのようにしてコンセントとしてまとめ上げていったかが垣間見える。具体的なモチーフは以下の3点。

・アメリカ国旗のストライプ
・抽象的な炎
・菱形の建築テクスチャー


Diller Scofidio + Renfro によるこのUSOPMの建築デザインは、「競技中のオリンピック選手のエネルギーと優雅さ」にインスピレーションを受けたもので、柔らかくカーブしたエッジを持つ斜めのブロックの集合体がうろこ状の皮に包まれている。Chermayeff & Geismar & Havivは、この菱形のパターンから、オリンピックカラーのアメリカ国旗から取った5つのストライプでできた横向きの菱形というロゴの形を見いだした。

この斜めに傾いたダイヤモンドストライプは、このシンボルマークのデザインに躍動感、スピード感を付与し、アスリートたちの持つエネルギーをうまく表現していると言える。

シンボルデザインの分析

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斜めに走る5輪色のストライプは実際にシンボルデザインを分析してみると、45度よりも少し浅くおよそ「41.25度」でデザインされている。そのわずかな角度の調整によって、より躍動感を感じさせる印象表現に寄与している。

またグリーン、ブラックのストライプの太さ(ラインウェイト)とピッチ(その間の隙間)の比率はおおよそ3:4で綺麗な整数比に設計されている。加えてレッドやブルーといったラインカラーによって、ウェイト幅の細かい調整も施されているようだ。(手元のデータでは詳細は不明だが、カラーの明度・彩度による視覚補正だと思われる。)

カラー設計の面では、特に「5色の順序」がロゴデザインにとって非常に重要な意味を持ち、その大きく印象を左右するが、上から順にレッド・ブルー・イエローと五輪マークの順序とは大きく異なる。これは「アメリカ」の国旗の配色を意識した意図的なものだと思われる。もっとも目立つ位置に配色されるカラーが、アメリカ国旗と同じレッドとブルーである点の全体の印象に対する寄与は大きく、結果的に全体が調和した良いバランスなのでは。(そのほかにも例えば最下部に黒とすると、直下のロゴタイプの色と重なるので避けたい、など検討の跡が見て取れる)

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また、Chermayeff & Geismar & Haviv によれば、この菱形のストライプの造形は、「抽象的な炎」を連想させるものとしてデザインされているとのことだ。ブランディングコンセプトの写真にもある、風を受けて揺らめく聖火の動きのある形を想起させる。

五輪カラー、炎など見慣れた要素を連想させながら、かつ、これまでに無い独創的なオリジナルのブランドアイデンティティを構築している。

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ロゴタイプと「アンパサンド」のデザイン

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ロゴタイプのデザインにおいて、もっとも特徴的な点はアンパサンドの字形だろう。「and」と近い意味をもつため、同じ用途で使用されるケースも多い。しかし厳密には純粋に「and」の代わりでは無く、正式名称など強く関連付けられた概念同士を結ぶものである。

そうした観点みると、近年のオリンピックで指向されているオリンピックとパラリンピックの融合を非常にうまく表現した、「アンパサンド」を行頭に配置した素晴らしいロゴタイプだと感じる。

各の字形のデザインは、一見すると幾何学的でありながら、ラインのわずかな抑揚に人間味を感じる点も素晴らしい。

建築デザインとダイヤモンドパネルについて

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建物のデザインはこのようなイメージ。シンボルマークのデザインにもモチーフとして使用された、ダイヤモンド型の1万個のパネルが、外観の中でも特徴的。ガラス張りで浮遊しているようにも見える建物は面白く、スタジアムなど他のスポーツ施設とも異なる印象があるのはいいのでは。

その他アプリケーション展開

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サインやポスターへのビジュアル展開。こうしてみると五輪の色の組合わせは思っているよりも強固で強い。かなり自由に展開しているにも関わらず印象の統一感が損なわれること無く表現されてる。

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一方で色が単調なので、時折感じる無粋な印象は拭えない。特に上の冊子は五輪のカラーリングが強すぎるためか、シンボルマークのデザインの良さが消されている印象も受ける。右側にある色面はいらないのでは。

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カップの飲み口が赤いのは口紅などが目立たないようにするための工夫だろうか。この5色の中で一色だけ強調されると、精緻に取られていたバランスが崩れる。中に注ぐドリンクの種類によっては違和感ありそう。

Yシャツやバッグ、キャップなどホワイトをベースとした布地へのアパレル展開は相性良さそう。

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SNSクリエイティブ展開

SNSでの展開も、シンボルマークのデザインをうまく活用したクリエイティブを行っていて興味深い。以下にツイッターで実際に使用されているデザインをいくつか例示する。

米国オリンピック&パラリンピックミュージアムのブランドロゴ事例 グリッド分析 SNSクリエイティブ

基本的な画角を正方形に揃え、左上にホワイト一色のシンボルマーク、中央下側に、オリンピックの5色のカラーが小さい四角形で配置されている。

写真によってはシンボルマークの可視性が低下するものもあるが、SNSというプラットフォーム上に連続して流れるポストで見るとほとんど気にならない。

特にホワイト一色のみのシンボルマークでは、オリンピック関連の施設という想起が極端に損なわれるが、その点を別の要素(下部の四角形)を用いることで補完するアイデアが面白く、うまく機能している。

米国オリンピック&パラリンピックミュージアムのブランドロゴ事例 グリッド分析 SNSクリエイティブ
米国オリンピックミュージアムリブランディング事例SNSクリエイティブ

イベント告知などのクリエイティブ。正方形のアートボードと、円形の要素を組みあわせてデザインされている。オリンピックの5色を基本にした、グラデーションによって全体の写真やテイストの統一をはかり、過剰な装飾もなく綺麗に仕上がっている。

米国オリンピック&パラリンピックミュージアムのブランドロゴ事例 グリッド分析 SNSクリエイティブ

これは歴代のコーチを紹介するポストのクリエイティブデザイン。写真をトリミングして、左上にシンボルマークが配置されているのは他クリエイティブと統一。顔のサイズが写真によって異なる点は気になる。

おわりに

最終的なアウトプットのクオリティもさることながら、ブランディングコンセプトのイメージシートから、どのようなプロセスや検討を経て最終フィニッシュのデザインにまでたどり着いたのかがわかる資料が公開されていて、非常に参考になりました。

IOCも公認のオリンピックミュージアムで、すでに「五輪」という固定化されたイメージを踏襲しつつ、新しいアイデンティティを構築するのは想像以上に難易度が高いと思いますが、それらを超えて一目で覚えられる美しいデザインでした。

*記事内で使用した「US Olympic and Paralympic Museum identity」ロゴマークデザインおよび関連画像は、全て “Chermayeff & Geismar & Haviv” より引用しています。

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