Jarroldsにみるリブランディング事例分析と考察

Jarroldsによるリブランディング事例分析2023

英国ノリッジに本拠を置くJarrolds(ジャロルド)は、1770年に設立された伝統ある百貨店。1823年にノーフォークに移転し、その200周年を記念してデザインスタジオ The Click がデザインを手がけた新しいブランドアイデンティティを導入しました。

Jarroldsによるリブランディング事例分析2023

Jarroldsを象徴的するライオン像を抽象化したシンボルマークが、ブランドの主要なアイデンティティを掲載しています。

近年のリブランディングでは抽象化された図形が多い中、具象的な実在する動物をモチーフにしたデザインは目を惹きますね。このシンボルのデザインは、2. Representational(具象的図形)に分類されます。

分類2_具象的図形

ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。

伝統を超えたブランドの再構成

2つの世界大戦を乗り越え、何世代にもわたってノーフォークの市民に貢献してきた伝統ある百貨店。その歴史の深さを表すように、プロジェクトのページにはこれまでの広告で用いられてきた「Jarrolds」のロゴタイプやビジュアルが並べられています。

時代や媒体によって用いられる書体は様々なようですが、一部にはライオン像がビジュアルに統合されているのが分かります。

Jarroldsによるリブランディング事例分析2023
Jarroldsによるリブランディング事例分析2023

また、今回のリブランディングでは、これまで全て大文字だった表記が頭文字のみ大文字になり、かつ複数形の「s」が付与されています。

ディティールに組み込まれたロゴタイプのデザイン

Jarroldsによるリブランディング事例分析2023
Jarroldsによるリブランディング事例分析2023

これまでのデザインも、歴史の重みを感じさせるいいデザインだったと思います。「J」を手にしたライオン像とTrajan(に似た書体)との組合せによるデザインは、伝統的な百貨店のアイデンティティにふさわしいものでした。

強いて言えば、ライオン像のシンボルは詳細に描かれている割にロゴタイプに比較して小さく、ディティールや特長が捉えづらい点でしょうか。

新しいデザインは、このシンボルマークとロゴタイプの関係を逆転させ、ブランドを構成する要素として「ライオン」を主役に据えました。その結果、より力強い印象と信頼性、親しみやすさを獲得しています。

Jarroldsによるリブランディング事例分析2023
Jarroldsによるリブランディング事例分析2023

ライオンシンボルのグリッドも公開されていて、参考になりますね。全てが直線と円で描かれている訳ではない点が興味深いです。

より目に付きやすいラインの先端部分(脚や尾など)を中心に、直線と円形による幾何学的な造形を与えているようです。(個人的に気になった点は、たてがみと胴体の間にある切り込みの部分。ライオンであることを強調するためのディティールだと思われますが、首が切れているようにも見えてしまいます。)

色によるブランドの多様化

以前のアイデンティティよりも落ち着いた色に更新されたパープルに、やや明るい鮮やかなブルーが加わりました。

ブルーの色味は「Verdigris Blue(緑青)」という名前からも確認できるように、銅に生じる緑色の錆から付けられたカラーです。これは冒頭のライオン像に由来する色で、ブランドのアイデンティティをより強固なものにしています。それらは互いにうまく補完しており、ブランドに高級感を加えました。

Jarroldsによるリブランディング事例分析2023

これらのカラーにあわせたタイポグラフィも規定されています。

パープルの色にはローマン体のLapture、ブルーにはサンセリフ体のDM Sansがそれぞれ使用されているようです。

Jarroldsによるリブランディング事例分析2023
Jarroldsによるリブランディング事例分析2023
Jarroldsによるリブランディング事例分析2023
Jarroldsによるリブランディング事例分析2023
Jarroldsによるリブランディング事例分析2023

正直なところ、パープルのみのカラーで展開した方がブランドとしての伝統や品格が一貫できるのでは、というのが最初の印象でした。しかし上のような包装紙、紙袋やメニュー、タグなど様々なアイテムへの展開を見ると、価格帯もカテゴリーも多岐にわたるアイテムを取り扱う百貨店であるからこそ、それらに応じた柔軟さをカラーパレットによって担保しているのだと気づきます。

広範な商品群とブランドの世界観構築

パープルとブルーのカラーパレットの汎用性は優れたものですが、生活雑貨からラグジュアリーブランドに至るまで、様々な商品を販売する百貨店にとってはそれでも不十分なようです。

以下にはより広範囲で多様な展開が見て取れます。マーブリングや水墨画、インクや刷毛といった手仕事である「クラフトマンシップ」を想起させる技法によってポスターやサインを機能させました。

ひとつひとつのビジュアルは優れたものと言えなくは無いのですが、一貫したブランディングという面でみると、認識を確立するには(若干)スタイルの多様性にばらつきがある印象です。

Jarroldsによるリブランディング事例分析2023
Jarroldsによるリブランディング事例分析2023
Jarroldsによるリブランディング事例分析2023

書体の使い分けについては、プレミアム製品向け(ローマン体)と、より一般的なライフスタイル向け(サンセリフ体)とそれぞれに対応しているようです。そうした実際の商品カテゴリーに合わせたビジュアル展開は、消費者にはわかりやすく受け入れられそうです。

おわりに

ライオン像のモチーフとロゴタイプへのディティール展開、像の素材から得られた緑青のカラーモチーフなど、ブランドにおけるストーリーの重要性を余すこと無く伝え、質の高いアウトプットに昇華させたデザインです。

伝統的でありながら、全く古さを感じない素晴らしいリブランディングの事例だと思います。

*記事内で使用した「Jarrolds」のシンボルマーク・ロゴタイプおよび関連画像は、全て “Jarrolds” に帰属します。

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