PEPSIのブランドロゴ刷新事例 広告イメージとグリッド分析
炭酸飲料で広く知られる1898年創業のPEPSI (ペプシ)。
2024年に迎える125 周年を記念してデザインされた、グローバル展開される新しいシンボルとビジュアルアイデンティティシステムの事例を取り上げる。デザインはPEPSI社内による。
ロゴマークのデザインは、5. Emblems(エンブレム)に分類できそうだ。地球を表す円形(と瓶を密封するための栓、「王冠」を模したものと思われる1950年のデザイン)をモチーフとして踏襲した。
エンブレムは視覚的な形状の中に複数の要素が含まれている事が多く、正統性の表現にふさわしい一方で可読性の低下を招くことも多い。PEPSIのシンボルマークは適切な抽象化とシンプルな造形によって、そうしたマイナスの影響を上手く回避している。
ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。
PEPSIブランドの変遷
歴史も長く、コンシューマー向けの飲料商品という点からも、これまでリブランディングを重ねる度に大きなアプローチ変更を伴って実施されてきた印象である。
特に前回2008年に行われたリブランディングでは、「Futura」書体を連想するような小文字のロゴタイプに、球体に見立てたシンボルマークを立体的・可動的に組みあわせるというチャレンジングなデザインだった。
今回15年振りのリブランディングでは、数世代前のデザインで用いられた地球のモチーフを踏襲したシンボルマークと、ややノスタルジックなロゴタイプを組みあわせている。
前回のデザインと比較すると受け取る印象は大きく変わり、(なぜか)小文字だったロゴタイプがウェイトの太いしっかりした大文字に戻っている。
飲料市場における商品の多様化が進む中、多くの人が感じる炭酸飲料のイメージと近しいシンボルマーク・ロゴタイプのデザインではないだろうか。
PEPSIシンボルマークデザインのグリッドによる分析
一方で「P」「S」「I」の文字の一部を斜めに傾けたディテールはやや不自然さが残るところでもある。以下に具体的な詳細を見る。
斜めのストロークは右上に向かって全て20度に揃えられており、特に「S」から「I」に続く傾斜の流れはうまく調和している。
「P」の傾斜はどうしても気になる点ではあるが、実際の商品=缶に施された展開イメージを見ると(平面と比べて)違和感は和らぐように見える。
Pulse graphicと新しい視覚的シンボル
アニメーションをともなったビジュアルエレメントとして、“Pulse graphic”と題された展開も面白い。シンボルを中心に、Pulse(脈)が波打つようにリズミカルに広がっていく。
なおかつブランド名と同じ「P」から始まるネーミングであることも、ブランドの要素を結びつけ一体感を生み出す重要な役割を担っていると言える。
特筆すべきアイデンティティの重要な新しい要素は、PEPSIの新しい視覚的シンボルとして「缶のシルエット」を導入したことだろう。これは、世界中で認識されているコカ・コーラの象徴的なボトルのシルエットに対するデザイン的アプローチと言える。
一般的な缶のシルエットとの違いが見当たらないものの、PEPSIはその視覚的シンボルを所有しようとしている意図が見て取れる。
缶の表現は写真とラインによるイラストのバージョンが。どちらの場合も、新しいシンボルマークは上部にダイナミックに表示され、缶の端をわずかに超えて広がっている。
この視覚的シンボルのもう一つの特徴は、すでに開いたように描かれるプルタブだろう。
この表現により、炭酸飲料の缶を開ける際に聞こえる音を想起させ、より強固なブランドイメージを定着させることができる。この点ではコカ・コーラよりもうまく機能しているデザインアプローチと言える。
PEPSIブランドのアプリケーション展開
「WILD CHERRY」のパッケージデザイン。チェリーのカラーがシンボルデザインと調和している(茎の部分をブルーへ変えている)こともあるが、Pulse graphicsとの組合わせも魅力的で、力強い存在感を発揮している。
プロダクトのデザインに展開された際のイメージ。シンボルマークが上下反転しても形状と色によってPEPSIと認識しやすい点は非常にいいのでは。
ボトルの展開などロゴタイプのみを使用する際は、やはり斜めのストロークが気になる箇所ではある。
おわりに
新たなシンボルマーク・ロゴタイプに加え、視覚的シンボルとして「缶のシルエット」を展開して構築する世界観は魅力的で力強く、非常に成功したリブランディング事例だと思います。
この「缶シルエット」デザインは、上で提示されているイメージだけではなく、様々なグラフィックを組みあわせられる可能性があり、ブランドアイデンティティを補強する有効なスタイルと言えます。
*記事内で使用した「PEPSI」のシンボルマーク・ロゴタイプおよび関連画像は、全て “PEPSI” に帰属します。
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