イッタラのリブランディング事例

フィンランドデザインを代表する「イッタラ」、2024年に70年近く使われてきたロゴタイプを刷新し、良くも悪くも大きな話題になりました。サンセリフ体で描かれたロゴタイプから彫刻された碑文のようなデザインへ、大胆な変更と言えます。
1881年に設立されたイッタラは、フィンランドのイッタラ村で設立されたガラスメーカーブランドです。デザイナーやアーティストとのコラボレーション商品によって日本でもよく知られ、今やグローバルなデザインブランドに成長しています。近年ではガラス以外にもセラミックや金属といった素材への展開も行っています。
旧デザインからブランド名の頭文字「i」を配したモノグラムを取り除き、ワードマークのみによってアイデンティティを再構築したデザイン。分類としては 4.Wordmarks(ワードマーク・文字)になりますね。
ロゴマークデザインの5つの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。
ブランドとユーザーとの強い絆を表す象徴的な赤いモノグラム

展開する商品は普段の生活に身近な食器類が多く、これまで印象的だった赤いモノグラムはその品質の高さやブランドの識別記号として強い存在感を示してきました。
上の写真のように、商品に貼られたモノグラムシールを剥がさずに使い続ける人もいるほど、ブランドとユーザーとの強い絆を表す象徴的な例となっています。

加えてデザイナーやアーティストとのコラボレーションによって生み出された商品にはデザインの名作と呼ばれるものも多く、1936年にアルヴァ・アアルトがデザインした「Alvar Aalto Vase」はその中でももっとも知られるデザインですね(上写真左)。

その他にも今や定番となったカイ・フランクのデザインした「Teema」など、目にしたことなるプロダクトも多いのではないでしょうか。
一方で経営面では順調とは言えず、この20~30年で同社は何度もオーナーが変わり、最終的に2007年にフィスカース・グループの一員となりました。
2023年から新しいクリエイティブ・ディレクターのヤニ・ヴェプサライネン(JANNI VEPSÄLÄINEN)が指揮を執り、今回の新しいアイデンティティ刷新に至りました。彼女はJW アンダーソン、ジバンシィ、アレキサンダー・マックイーン、シモーネ・ロシャ、ザ・ロウなどで経験を積んだ人物です。
優雅なディティールを持ったロゴタイプデザイン

新しく刷新されたアイデンティティは、これまでのロゴタイプを参照しつつ、新たなデザインが開発されている模様を確認することができます。興味深いのは、あくまでタイポグラフィのみを参照しているように見える点ですね。

この中には「i」の赤いモノグラムなど、シンボルのデザインが含まれていません。(ロゴタイプ以外の)デザインについて、発表当初はウェブサイトにも掲載されていましたが、現在はすでに削除されているようです。
InstagramなどのSNSでも、リブランディング前のポストは全て削除されているなどラグジュアリーブランドの振る舞いに似ている点も興味深いですね。
オリジナルのタイポグラフィとフルフォント「Aino」

ロゴタイプは、同じスタイルを踏襲したフルフォント「Aino」にも拡張されています。
優雅な雰囲気があり、彫刻された碑文のようにも見えます。歴史と伝統を感じさせるデザインで、これまでの幾何学的なサンセリフ体と比較してはっきりとした違いがみてとれます。

ブランドのカラーも鮮やかな黄色になり、パッケージやショッピングバッグについても同様の展開されています。
実店舗のサインもすでに差し替えられており、より華やかに大きく雰囲気が変わっていますね。


おわりに
クリエイティブ・ディレクターの経歴をみても、今回の事例は家庭用品ブランドという枠を超えてファッションブランドとしての地位を確立しようとしている事が伺えます。
ストロークは細くなり、優雅なカーブによる品のあるデザインや「TT」が2つ繋がるユニークなディティールなど、オリジナリティーがある美しいロゴタイプですね。エネルギーを想起させる鮮やかな黄色によって綺麗なデザインにまとまっています。
新しいクリエイティブのもとでデザインされた最初のコレクション、IITTALA PLAY(イッタラ プレイ)も注目です。
*記事内で使用した「IITTALA」のシンボルマーク・ロゴタイプおよび関連画像は、全て “IITTALA” に帰属します。
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