Appleデザイン言語 Snow white-01 書体規定について
優れたデザインとして知られる Apple ですが、その転機となったのは1980年代初めからそのクリエイティブを支えた フロッグデザイン(とハルトムット・エスリンガー)と言えるでしょう。
エスリンガーはスティーブ・ジョブズらAppleのデザインチームとともに、スノーホワイトという「デザイン言語」を開発します。
デザイン言語とは「インダストリアルデザインに一貫性を持たせ、すべての製品のルック&フィールを統一化する」ためのデザインルールです。
エスリンガーの著書には、Appleと開発したデザイン言語に関する記述があります。
『フロッグデザイン創設者 ハルトムット・エスリンガー 形態は感情にしたがう』によるとエスリンガーらが開発した「デザイン言語」は以下のようなものです。
最後の項目では(キーボード用)書体に関する規定が見られます。
・ゼロドラフト(抜き配なし)のスレートを組み合わせた人型の形状。サーフェスのテクスチャは最小限。塗装なし。傾斜が必要な場合には、その部分は必要最小限(モニタ)。サイズも重量も極力抑える。
・可能な限り、左右対称。
・前面から背面にかけてのスリット:幅2ミリ、深さ2ミリ、グリッド 10ミリ、前面のくぼみ=30ミリ、背面のくぽみ=4~10ミリ。
・色:白。対比色は柔らかいオリープグレー(1984年後期には「プラチナ」と呼ばれるライトグレーに変更。
・プランディング:アップルのロゴマークのみをデザインに馴染むように埋め込む。製品名はタンポ印刷で印字、色はダークグレー。フォント:アドリアン・フルティガー (Adrian Frutiger) による universe (condensed italic) および Garamond (condensed)
『フロッグデザイン創設者 ハルトムット・エスリンガー 形態は感情にしたがう』p142より
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この書体に関する規定が展開された具体的な例を見ていきましょう。
下の写真は、エスリンガーがAppleに向けて提案したデザインのCI計画「ニューブランドイメージ」の一部で、キーボード用の文字に関する部分です。スイスの書体デザイナー、アドリアン・フルティガーによってデザインされた universe が指定されています。
universe という書体は他のグロテスク系サンセリフ書体と同様、筆記体に近い形のバージョンは(イタリックでは無く)オブリークで設計され、現在入手が可能なフォントも同様です。
「デザイン言語」スノーホワイトで指定された書体とほぼ同等の「Univers 47 Condensed Light Oblique」をエスリンガーのプレゼンテーションと比較してみました。
興味深いのは、元の Oblique から更に角度を倒し、かつ文字幅を細く調整してる点ですね。
恐らくキーボードの物理的なサイズとキーピッチなど、人間工学的な観点から適切な角度を導き出し、それに応じて書体に調整をかけたのではと推測します。
一方で、「@」「#」といった記号は、正体と呼ばれる傾きの無いものを用い、可読性を優先したと思われます。「デザイン言語」を単にマニュアル的に運用するだけでは意味を成さない、というデザインに対する姿勢が垣間見えるポイントです。
ブラインドタッチという言葉があるように、キーボードを使いこなすようになるとキーそのものを見なくても入力出来るようになります。しかし、それでもキーボードの書体一つ一つにまでデザインすることには重要な意味があります。実際 Appleブランドの成功にも、そういった細部まで丁寧に作り込まれているデザインが寄与していると言えるでしょう。
現在では、たくさんのキーボードメーカーが素晴らしいデザインのキーボードを提供しています。それぞれのブランドは独自のイメージやターゲットに合わせて、さまざまな書体を採用しています。
キーボードのデザインにも目を向けることで、より快適なタイピング体験ができるかもしれません。
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この記事は、Balloon Inc. のニュースレター「デザインマガジン🎈Balloon」第5号を元に作成しています。
「デザインマガジン🎈Balloon」では、スタッフが自由気ままに綴った「上の句」を受けて、CEOの志水がデザインの話題に何かしら関係させて「下の句」を書く形式をとっています。
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