資産としてのブランドを設計する:ブランド定義の類型化とエクイティ構築の構造

資産としてのブランドを設計する:ブランド定義の類型化とエクイティ構築の構造

2025年11月29日、摂南大学枚方キャンパスにて第84回KNS(関西ネットワークシステム)定例会にて、プレゼンテーションを行いました。テーマは「ブランドのデザインについて」です。

昨今、ブランディングという言葉はビジネスのあらゆる場面で耳にしますが、その実態は非常に多義的で、人によって捉え方が異なります。

今回の講演では、バラバラに語られがちなブランドという概念を、国内外の多様な定義の分析を通じて整理しました。それをいかにして経営に貢献する「資産(ブランド・エクイティ)」へと昇華させるか。デザインが担うべき役割は、単なるビジュアル制作ではなく、この資産価値の構築そのものにあるということについて話しました。

ブランディングの定義:名前から「無形の資産」へ

ブランディングの本質を正しく理解するために、まずは「ブランドとは何か」という根源的な問いから掘り下げました。そのために、主要な組織、団体によるブランディングの定義をリスト化し、比較しながら類型化を行います。

資産としてのブランドを設計する:ブランド定義の類型化とエクイティ構築の構造

世の中に存在する主要なブランドの定義を収集・分析し、それらを類型化し、大きく4つのグループに分けられるのではという仮説が今回の講演の核です。

4分類は以下のスライドになります。「識別するための記号」といったものから、資源やコミュニティなど抽象度の高い定義を行うところもあり、多義的な意味合いで使われていることがわかります。

資産としてのブランドを設計する:ブランド定義の類型化とエクイティ構築の構造

4象限プロットによるブランド定義の体系化

ブランドの定義を、「具象(目に見える記号)」から「抽象(心の中の価値)」、そして「商品(モノ)」から「企業(組織)」という2つの軸で分類しました。この分類により、ブランドがどの領域に重心を置いているかを可視化することができます。

資産としてのブランドを設計する:ブランド定義の類型化とエクイティ構築の構造

✔️ 第1象限:識別記号としてのブランド(具象×商品)
AMA(アメリカマーケティング協会)などの定義がここに属します。名前、ロゴ、シンボルなど、競合他社と自社を区別するための「印」としての役割です。最も古典的でありながら、識別の基盤となる重要な領域です。

✔️ 第2象限:約束・体験としてのブランド(抽象×商品)
顧客がその商品を手にしたときに得られるベネフィットの合計や、提供者と顧客の間の「目に見えない約束」としての定義です。デビッド・オグルヴィなどが提唱した「製品が持つ特性の総体」という考え方が含まれます。

✔️ 第3象限:人格・関係性としてのブランド(抽象×企業)
ブランドを一つの人格として捉え、顧客との間に築かれる情緒的なつながりや信頼関係を重視する考え方です。ここでは「誰が言っているか」という企業の姿勢や、顧客とのパートナーシップが定義の核となります。

✔️ 第4象限:経済的資産としてのブランド(具象×企業)
インターブランド社などの定義に見られる、将来の収益を保証する「無形の資産」としての側面です。ロゴや名称そのものが、企業価値(時価総額)の一部としてカウントされる戦略的な領域です。

資産としてのブランドを設計する:ブランド定義の類型化とエクイティ構築の構造

このようにマッピングすると、ブランドという概念が単なる「ロゴのデザイン」から、経営戦略の核心である「経済的資産」へと広がっていることが鮮明になります。

「識別」から「資産」へ:時代による重心の変化

ブランドの定義は固定されたものではなく、社会の成熟とともにその重心を移動させてきました。

かつてのブランドは、語源である「Brandr(焼印)」が示す通り、所有者を証明するための「識別の道具」でした。しかし、市場にモノが溢れ、機能だけでは差がつかなくなった高度経済成長期を経て、ブランドは他者との違いを際立たせる「差異化の象徴」へと進化しました。

そして現代では、デジタル化や情報の透明性が進む中で、ブランドは企業の経営的な面に大きな影響を与える「ブランド・エクイティ(ブランド資産)」として定義されるようになりました。

この変遷は、デザイナーの仕事が「形を作ること」から「文脈を設計し、資産価値を最大化すること」へとシフトしたことを意味しています。現代のデザイナーは、グラフィックの美しさだけでなく、その記号がどれほどの資産価値を蓄積できるかを設計しなければなりません。

ブランド・エクイティ:なぜブランドは「資産」なのか

デビッド・アーカーが提唱した「ブランド・エクイティ」という概念は、デザインと経営を直接結びつける重要な架け橋です。ブランドを単なるコスト(宣伝費)ではなく、時間の経過とともに積み上がっていく「資産」として捉える視点が不可欠です。

ブランド名やロゴに関連付けられた資産の集合体は、顧客にとっての価値(情報の処理効率や安心感)を高めるだけでなく、企業にとっても極めて具体的な利益をもたらします。

✔️ 価格競争からの脱却:ブランド力があれば、スペックが同等の他社製品よりも高い価格を設定しても選ばれ続けることができます。これは収益性の向上に直結します。

✔️ 顧客ロイヤリティの向上:強いブランドは、一度の購入で終わらない継続的なファンを生み出します。リピート購入は、広告に頼らない安定した収益源となります。

✔️ マーケティングコストの削減:すでに高い認知度と信頼があれば、新商品を出す際の初期コストを大幅に抑えることが可能です。

✔️ 参入障壁の構築:強固なブランドイメージは、競合他社が容易に真似できない独自の市場ポジションを確立します。

資産としてのブランドを設計する:ブランド定義の類型化とエクイティ構築の構造

デザインの役割は、この「目に見えない資産」を蓄積するための「堅牢な器」を作ることにあるのです。一貫性のないデザインは、この器に穴をあけ、せっかく蓄積した資産を漏らしてしまうことと同じです。

コンセプトを形にする:抽象から具象へのプロセス

デザインコンセプトとは、ブランドが持つ独自の価値を抽象的に抽出し、ヒトとモノの新しい関係性を見出すプロセスです。これは、経営層が抱く「想い」を、一般の消費者が受け取れる「共通言語」に翻訳する作業とも言えます。

Balloon Inc.では、単に美しいロゴを作るのではなく、その背後にある思想やブランド・エクイティの構造を理解した上で、一貫したビジュアル・アイデンティティを構築しています。

例えば、BOSAI Universal Design (BUD) プロジェクトでは、「専門的な防災知識」という硬くて抽象的な価値を、誰もが直感的に理解でき、かつ「自分事」として捉えられる「優しさと信頼」という形に変換しました。また、ロゴデザイン神経衰弱というワークショップでは、デザインの細部に宿る「人格」をゲーム感覚で体験してもらうことで、ブランドの識別性と共通性の理解を深める試みを行っています。

抽象的な「企業の思想」を、誰もが認識でき、そして愛着を持てる具体的な「形」へと変換することが、私たちが考えるブランドデザインの本質であり、企業の未来に向けた「資産価値の設計」です。


執筆者プロフィール:志水 良(Shimizu Ryo)

Balloon Inc. CEO / アートディレクター
OUZAK Design、キーエンスでのデザイン経験を経て、現在はブランディング、UI/UX、工業デザイン、グラフィックデザインまで幅広くカバー。JAGDA・JIDA正会員、German Design Award、A’ Design Award、Graphis Brandingなどを受賞。TEDx Kyotoへの参画など、デザインを通じた社会実装を推進している 。
・Balloon Inc. 公式サイト: lloon.jp