専門知を「価値」に変えるデザイン:奈良文化財研究所での講演レポート

専門知を「価値」に変えるデザイン:奈良文化財研究所での講演レポート

2025年12月3日、奈良文化財研究所にて「デザインのじくあし — 調査成果を伝えるためのデザイン」というテーマで講演+ワークショップ行いました。

研究成果や専門的な知見は、正しく伝わって初めて社会的な価値を持ちます。しかし、膨大で複雑な情報を、専門外の人にも理解できる形で届けるには、単なる「見た目の整理」以上のアプローチが必要です。

本講演では、情報を構造化し、受け手の認知に働きかけるための「デザインのじくあし」について、講演と実際に手を動かしてもらうワークショップを行いました。

1. デザインは「共通言語」である

デザインの役割は、装飾することではありません。送り手の「意図」と受け手の「認識」のズレを最小化し、情報を正しく翻訳することにあります。 特に歴史や考古学といった専門領域の調査成果は、情報の密度が非常に高く、そのままでは受け手がどこに注目すべきか迷ってしまいます。そこで必要になるのが、情報を階層化し、視線を誘導するための「デザインの論理」です。これはセンスの問題ではなく、誰にでも習得可能な「技術」です。

専門知を「価値」に変えるデザイン:奈良文化財研究所での講演レポート:当日のプログラム

2. 体験するデザイン:書体カードワークショップ

座学だけでなく、実際に手を動かしてデザインの「選択」を体験していただくために、講演内では「書体カードワークショップ」を実施しました。

これは、さまざまな表情を持つ書体(フォント)が印刷されたカードを、特定の形容詞やコンセプト(例:「伝統的な」「親しみやすい」「精密な」など)に合わせて分類していくワークです。この体験を通じて参加者が驚かれるのは、同じ言葉であっても書体が変わるだけで、受け取る印象が大きく変わってしまうという事実です。

書体選びは「好み」ではなく、情報の背景にある人格を規定する「論理的な選択」です。専門的な知見に相応しい「声」をどのような書体で表現すべきか。ワークショップを通じて、その感覚を論理的に言語化するプロセスを体験していただきました。

3. ディティールを見分ける目のトレーニング

デザインの「良し悪し」を主観で終わらせず、客観的な根拠を持って判断するためのワークショップも実施しました。

ロゴの一部からブランドを当てる「ロゴクイズ」

誰もが一度は目にしたことのある有名ロゴの一部(断片)を見て、それが何のブランドかを当てるクイズを行いました。

要素を削ぎ落とした一部を見ても、そのブランドだと認識させる「造形の力」を体感していただくのと同時に、普段の生活の中での観察の重要性を感じていただきました。

専門知を「価値」に変えるデザイン:奈良文化財研究所での講演レポート:ロゴクイズテンプレート

書体ごとの細かな表情の違い

また、書体(フォント)による印象の差異についても掘り下げました。同じ文字でも、セリフ(飾り)の有無や線の強弱によって、受ける印象は「伝統的」から「先進的」まで大きく変化します。

専門知に相応しい「声」をどのような書体で表現すべきか、その選択の基準をディティールから読み解くトレーニングです。

4. 情報を構造化する「じくあし」の重要性

複雑な情報を整理する際、Balloon Inc.では「具体と抽象」の往復を重視しています。

✔️ 何を最も伝えたいのか(抽象・本質)
✔️ それを裏付けるデータは何か(具体・証拠)


この関係性を視覚的に整理するだけで、資料の分かりやすさは劇的に変わります。講演では、アフォーダンスやシグニフィアといった認知心理学の知見を交え、ユーザーが「考えなくても直感的に理解できる」状態をいかに作るかについて解説しました。

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5. 非デザイナーのための「デザインのじくあしセミナー」

今回の奈良文化財研究所での講演内容は、Balloon Inc. が行なっている「デザインのじくあしセミナー」のプログラムをベースにしています。

本セミナーは、ノンデザイナーの方を対象に、
✔️ 情報の優先順位の付け方
✔️ 論理的なレイアウトとタイポグラフィの選択
✔️ 図解による複雑な関係性の可視化


といった、明日から実務で使える「デザインの思考法」を短かい期間で習得していただくものです。

「センスがないから」と諦める必要はありません。確かな「じくあし」さえ身につければ、あなたの専門知識はもっと遠くへ、もっと深く届くようになります。

おわりに:デザインを、すべての専門家の武器に

デザインは一部のクリエイターだけのものではありません。価値ある知見を世に送り出す専門家の方々にとって、デザインは自らの思想を社会に広く届けるための強力な「武器」となります。

どんなに素晴らしい調査成果も、必要な方に伝わらなければその価値は半減してしまいます。Balloon Inc.は、セミナーやクリエイティブを通じて、専門家が持つ「価値」を最大化するための翻訳者であり続けたいと考えています。

「どう伝えればいいか分からない」という悩みをお持ちの組織や企業の皆様、ぜひ一度「デザインのじくあし」を整えるプロセスを共に体験してみませんか。

【デザインのじくあしセミナー】
▶︎https://lloon.jp/basic_seminar/

デザインの初学者やノンデザイナー、専門家の方々へ向けた、実務直結型のデザインの基礎を習得できるセミナーです。情報の優先順位の付け方から、論理的なレイアウト、書体選択、図解による可視化まで、誰にでも習得可能な「デザインの論理」を体系的に学んでいただけます。単なる操作スキルの習得ではなく、情報の本質を捉え、正しく伝えるための「じくあし」を整えるためのプログラムです。

その他、デザインに対する考え方やAIとの距離感についての考察など、こちらもあわせてご覧ください。

▶︎「回答」ではなく「補助線」:デザインの解像度を一段上げるAIとの距離感
UIデザインの歴史を紐解いた先に、現代の生成AIをどのように位置づけるべきかを考察した記事です。AIを人間の思考を深めるための「補助線」として捉える、テクノロジーとの新しい向き合い方を詳しく解説しています。

▶︎ 資産としてのブランドを設計する:ブランド定義の類型化とエクイティ構築の構造
優れたデザインアセットを、企業の「経営資産(ブランドエクイティ)」として蓄積・活用していくための戦略的な視点をご紹介しています。中長期的な価値を構築するための論理的な構造について深く掘り下げた内容です。

▶︎ ブランディングの理論と実践
Balloon Inc.が活動の中で培ってきた、デザイン哲学やブランディングの知見を集約したポータルページです。私たちが大切にしている「デザイン」の全体像を俯瞰してご覧いただけます。


執筆者プロフィール:志水 良(Shimizu Ryo)

Balloon Inc. CEO / アートディレクター
OUZAK Design、キーエンスでのデザイン経験を経て、現在はブランディング、UI/UX、工業デザイン、グラフィックデザインまで幅広くカバー。JAGDA・JIDA正会員、German Design Award、A’ Design Award、Graphis Brandingなどを受賞。TEDx Kyotoへの参画など、デザインを通じた社会実装を推進している 。
・Balloon Inc. 公式サイト: lloon.jp