GSKブランドロゴ刷新事例 グリッド分析と考察
イギリス、ロンドンに本社を置く世界有数の規模を持つグローバル製薬企業、GSK(グラクソ・スミスクライン)は、現在世界第6位のバイオテクノロジー企業であり、ワクチン製造、処方薬、また最近まで消費者向け健康食品の分野でよく知られている。
2022年、同じくイギリスの広告・アイデンティティ・コンサルタント集団である Wolff Olins によってリブランディングされた事例を取りあげる。
ロゴマークのデザインを類型化すれば、4. Wordmarks(ワードマーク・文字)のデザインとなるだろう。薬剤の形状を想起させる造形が特長的だった旧来のシンボルマークから、全ての文字を正方形のグリッドに収めたロゴマークデザインとなった。
ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。
GSKの持つDNAを螺旋構造のデザインで表現する
今回のリブランディングの背景には、GSKがコンシューマーヘルスケア事業を切り離し、バイオ医薬品技術のみに集中するということがあるようだ。薬剤を想起させる親しみやすい形や、優雅なカーブによって描かれた小文字のロゴタイプは無くなり、垂直水平のしっかりしたラインによって描かれる幾何学的なデザインへ大幅に刷新された。
上図は、国内外の製薬関連会社のロゴマークデザインを4象限の図の中にプロットしたものだが、製薬業界内に限っても、デザインのアプローチは様々で多岐にわたることが見て取れる。
「GSK」の旧ロゴマークのデザインは、セリフを持った伝統的な書体をベースにしていたこともあり、フォーマルな印象が強いデザインだった。新しいデザインは、ねじれの造形をロゴタイプのディティールに付与した、ストロークの太さが一定のセリフ系書体となっており、そうしたデザインは旧ロゴマークには無い軽やかさも感じる。今回のリブランディングによって大きくポジションをシフトした点が興味深い。
ロゴタイプのディティールは、「DNA Twist」「Precision point」といったコンセプトを体現しており、やや過剰なほど精緻に調整されているのがわかる。この独特のディティールによって、このブランドのアイデンティティを強固に表現している一方で、小さいサイズでの展開時など、多様なアプリケーションでの再現性には疑問も残る。
幾何学的ロゴタイプのデザイン調整分析について
ロゴタイプのディティールについて分析を行った。3文字の書体はすべて同じサイズの正方形のグリッドにほぼ収まっており、この正方形を基準にいくつかの点を詳しく見てみた。
縦横のストローク幅は、若干の調整はあるものの正方形の20%幅を維持しており、太めのラインで描くことで全体として力強く、幾何学的なデザインである。
「DNA Twist」を表現するねじられた形状、角の丸みはひとつの等時曲線ではなく、複数の円弧をつなげたような調整がなされたものである。例えば「G」の左下の円弧は3分割されているが、それぞれの円弧の中心はそれぞれわずかにずれており、明確な意図は読み取りづらい。
サイネージやグローバルWebサイトヘッダーデザインは、この独特なロゴタイプ「GSK」とコーポレートカラーのオレンジをベースに、所々に「Precision point」のディティールを施している。
サイトヘッダーの「トピックパス」や、イメージフォトのマスクの形状などビビッドなオレンジカラーと相まってアクセントとして機能している。
一方で切り込まれた方向へのベクトルが強い造形のため、上下左右のどちらにも向けて配置すると、視線の移動を少し阻まれた印象も受け、配置の方向は難しいと感じる。
空間上で表現した立体化ロゴタイプ
アプリケーション展開のムービーによる表現の多様さは特徴的だが、「G」「S」「K」それぞれを立方体の一面ずつに当てはめたデザインは、あまり見られる例では無く興味深い。
また、こうしたロゴタイプのディティール、「DNA Twist」の造形をインテリアやテーブルなど立体的なプロダクトへ展開しているいくつかのイメージは、いかにこのコンセプトが強固なものであるかを示す一方、プロダクトのデザインとしては疑問が残るものと言わざるを得ない。
展示会のディスプレイデザインはアプリケーション展開の中では比較的よさそうな印象。プレートが両側から押し込まれたようなカーブは、実際のユーザーが触れる距離感にあるオブジェクトには不向きなのではと感じる。
アパレルへの展開はきれいにまとまっていて、カーブのディティールが袖口やポケットの一部に取り入れられておりとてもいい。
おわりに
COVID-19の流行によっても大きな注目を浴びるようになった製薬会社、日本でもよく知られる「GSK」のリブランディング事例を取りあげた。
パッケージデザインでの誘目性を意図したような旧来のシンボルマークから、幾何学的で、若さや、新鮮さ(ある意味では未熟さも感じる)を感じるデザインへの変更は、to C から、 to B への大きな転換をうまく表現したものと言える。
一方で、グラフィックのディティールにこだわるがあまり、(イメージだとしても)実際のプロダクトデザインへの落とし込みはまだ道半ばといった印象を拭えない。具体的なアプリケーション展開でのデザインを注視していきたい。
*記事内で使用した「GSK」ロゴマークデザインおよび関連画像は、全て “GSK” および “Wolff Olins” より引用しています。
※ ※ ※
Balloon Inc.の視点から分析・考察したデザインリサーチの最新記事をご覧いただけます