FANTAのブランドロゴ刷新事例 グリッド分析と考察

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

ドイツ語の「Fantasie(想像力)」を語源とした FANTA (ファンタ)は、The Coca-Cola Company (コカ・コーラ株式会社)の中でも2番目に古い歴史あるブランドである。

これまで地域毎に異なるデザインを展開するローカライズ戦略を採用していたが、2023年からは方針を転換。Jones Knowles Ritchie のリブランディングによって、グローバルアイデンティティを構築することになった。

いくつかの要素を取り除き、楽しげな印象はそのままシンプルなロゴタイプへ変更された。オレンジ、グレープ、アップル、レモンなど様々なフレーバーの炭酸飲料として知られるFANTAだが、オレンジ色と葉を取り去り、果物を思い起こさせるイメージから脱却した点は大きな特徴と言える。

分類4_ワードマーク・文字

デザインはロゴタイプと、それが飛び出たような抽象的な図形を統合させたもの。類型化すれば、4.Wordmarks(ワードマーク・文字)と捉えられる。ワードマークのデザインスタイルは、ブランドの歴史や個人的なタッチを表現するデザインも多く、こうした手法はブランドの出自や属性を示す場合に特に有効と言える。

ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へまとめています。

自由を表現するための「規則と幾何学」のデザイン

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

今回のリブランディングでは、ロゴタイプのストロークの抑揚が少なくなり均一なウェイトになった他、直線的に描かれる箇所が増え、幾何学的なデザインを志向している。

以下にグリッドによる分析と考察を行った。(小数点以下の数値は丸め、大まかな把握ができるよう記載している。)

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

横方向のストロークの傾きを角度ごとにまとめたものが上図である。右肩上がりのロゴタイプは前回と同様だが、それぞれどの程度傾いているのかを図示した。

ベースライン最も傾きの大きい7°で、以下6°、5°と続く。特徴的なのは4と図示された最後の「A」の内側を構成するラインで、この部分は0°で描かれてる。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

縦方向のストロークでは、原則として横ストロークに直交する角度で描かれている。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

ディテールの詳細をみると、上図のように最初の「F」や「N」「T」、最後の「A」など視覚的に重要な箇所に配置された文字には、意図的に直角が使われていることがわかる。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

ベースラインの角度を水平に設定したものをシミュレーションで表示した。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

それぞれの文字のウェイトを最も細い(二つ目の)「A」を基準にして比較したものが上図である。

基準ウェイトを100%とすると、最大で170%までのばらつきがあり、中でも水平垂直を描く文字を強調しているデザインであることがわかる。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

ロゴタイプのみを表示すると不揃いな箇所が目立ち、かなり歪んだ印象になっている。(7°という微妙な傾きが、ロゴタイプのデザインには大きく影響を与える。)

このように、一見すると奔放にデザインされているようにみえるが、要の箇所では幾何学的な処理が施されている。その結果、「楽しさ・自由さ」と「シンプルで洗練された印象」という相反するイメージが巧みに統合されていると考えられる。ポイントは以下のようなものだ。

・ベースラインの角度は全て同一
・直交するストロークが随所にみられる
・「F・N・T」など水平垂直を構成する文字を強調
・逆に斜めのストロークを持つ「A」はサイズも抑えられ、控えめな表現に
・ウェイト差も2倍以下に抑えられ、印象ほどばらつきは少ない

グローバルアイデンティティとしての新しい「フラット」FANTAロゴ

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

新しいデザインでは、鮮やかで明るい青とオレンジが用いられている。
配色は補色の関係で派手やかなカラーリングだが、要素がシンプルになった分違和感は少ない。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

白抜きの描かれてるブランド名に落ちていたシャドウの表現は消え去り、平面的な「フラット」なデザインとなったのも特徴的だ。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例
FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

新しいパッケージは缶の上部にロゴを配置し、大胆で明るい色が背景に施されている。
フレーバーの多さを考えた場合、ロゴで用いられた鮮やかな青色が、果物のカラーリングと競合せずにほぼすべての色でうまく機能するのは素晴らしい。

FANTAブランドを一新する書体と拡張されたカラーパレット

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

新しいカスタム書体も開発された。ロゴタイプとの親和性を感じさせる楽しげなものだ。より柔軟で機能的なタイポグラフィ展開を実現するシステムとなっている。

比較的太いストロークを持つ。抑揚はありつつ、ベースラインとキャップハイトの水平ラインはしっかりと維持されている点はロゴタイプと同様のコンセプトだろう。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

カラーパレットは、鮮やかなトーンで拡張され、さまざまなフレーバーへ対応しつつ、一連のフルーティーなグラフィックによって補強されている。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例
FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

イラストレーションも独自のスタイルを持っている。

直線的なロゴタイプと対照的有機的なカーブで描かれている点も、ボトルを際立たせる工夫として素晴らしい。

ロゴタイプの拡張性と展開例

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

ロゴタイプは青色の部分の形状が下側へ収束するデザインとなっており特徴的だが、実際の展開をみるとその鋭角の部分はかなり柔軟に、位置や角度に変化がみられる。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例
FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

公式Webサイトのフッターで用いられるロゴでは収束先が異なる。またWebサイトのヘッダーは鋭角を含む下側がトリミングされた形となっており、相当に自由な展開といえる。

一方ベースラインの角度は一致しているようでFANTAブランドのロゴタイプにおいてアイデンティティを構成する要素が何であるかを明確に意図されている点が興味深い。

FANTA(ファンタ)のブランドロゴ刷新事例

アプリケーション展開では書体からイラスト、渦巻き模様のイラストレーションに至るまで多くのビジュアルエレメントが楽しさを表現したアセットとしてシステム化されている。

「缶のシルエット」を軸としたPEPSIのリブランディング事例と比較すると、世界観を構築するアプローチの違いが興味深い。

FANTAがより強固なグローバルブランドを構築するための重要な転換点を見届けたい。

*記事内で使用した「FANTA」のシンボルマーク・ロゴタイプおよび関連画像は、全て “FANTA” に帰属します。

※ ※ ※

Balloon Inc.の視点から分析・考察したデザインリサーチの最新記事をご覧いただけます

Balloon Inc. デザインリサーチ記事一覧へ