VISAブランドロゴ刷新事例 国旗を引用したアイデンティティ構築
1958年に当時のBankAmericaが「BankAmericard」の名称でクレジットカードを発行したことから始まったVISA (ビザ)。Mastercardとともに世界的な国際ブランドとして知られ、世界シェア1位を誇るVISAブランドの2022年1月に実施されたリブランディング事例。
デザイン変更は7年ぶりで、前回の「VISA」ロゴタイプを踏襲しつつ3色のブランドカラーの組み合わせをブランドシンボルと位置づける大きな方針転換が行われた。
デザインはグローバルデザインスタジオのMuchoによる。
ブランドシンボルのデザインを類型化すれば、1.Abstract(抽象的図形)のデザインとなるだろう。具象的なオブジェクトは無く、3本のラインでシンプルなデザインである。一方「国旗」といったよく知られたデザインフォーマットを引用しているとも捉えられる点が特徴的だ。
ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。
VISAブランドの変遷
60年以上の歴史を持つVISAブランドの変遷は以下のようなものだ。当初発行されたクレジットカードのデザインにも現在のブランドカラーに通ずる青・白・黄の組み合わせが特徴的。
VISAへの名称変更後にはブランド名を青色で記載するが、恐らく背景とのコントラスト確保のためだろう(黄色では白地の上に配置した際に適切なコントラストを確保できない懸念がある)。その後も2005年のリブランディングでは黄色をロゴタイプの一部にアクセントとして活用するなど、この3色の組み合わせが、VISAブランドにおける伝統的なアイデンティティとなっていることが読み取れる。
今回のリブランディングではその3色のブランドカラーをアップデートし、VISAの伝統を活かしながら、明るく、よりダイナミックなデザインとなった。ますます小型化が進むモバイル環境で際立つようにするための適切な強調と言える。
ブランド戦略に基づいてMuchoが開発した「6つのデザイン原則」。この新しいブランドアイデンティティを運用するうえで、すべてのアセットのガイドラインおよびスタンダードとして機能している。
国旗のようなブランドシンボルとその効用について
今回のリブランディングでもっとも特筆すべきは「国旗」を連想とさせるブランドシンボルをデザインした点だろう。VISAブランドの構成要素として用いられてきたカラーの組み合わせを、独立したシンボルとして再生させている。
プロポーションは「2:3」と多くの国旗と同じで、かつ16世紀後半に使用されていたオランダの国旗に非常に近しいカラーリング(上下逆)である(現在は使われていない)。
国家という、形の曖昧な存在を象徴する「国旗」というデザインフォーマットを、国境を越えた世界中で知られるブランドに転用し、シンプルながら力強いブランドを展開している。いくつかの例を以下に。
VISAブランドシンボルの展開デザインイメージ
独自に開発されたピクトグラムやイラストのデザイン展開。
ブランドカラーと同じ青と黄色で描かれている。また興味深い点は以下のようなピクトグラムのラインピッチをブランドシンボルと合致させることで、一貫性を持たせている。
ステーショナリへの展開は清潔感のある白をベースに。鮮やかに変更されたブランドカラーが映える。
青・黄のラインがプロダクトの特徴的な造形を際立たせており、ブランド展開の好例と言える。
VISAブランドによるスポンサーシップは、オリンピックおよびパラリンピック、NFLスタジアム、FIFA ワールド カップ™ などで実施されている。ビジュアルアイデンティティが、どのように一貫性を保ちながら展開されているかを確認することが出来る。
以下はNFLでの実施例。水平方向にカットされたタイポグラフィが選手の動きのベクトルと一致している。
かつブランドシンボルの水平ラインを強調する効果を与えている。大胆でインパクトがあり、クリーンな印象を持ちながら力強い存在感を生み出すように構築されている。
おわりに
世界中の「国旗」の多くが長方形のプロポーションになったのは、つくりやすく、布地の無駄が無いからという理由だそうだ。
当初はおもに屋外、海洋上で識別のために使われたこのデザインフォーマットは、そういった意味でも強固なアイデンティティを構築するためのアプローチとして一つの最適解といえる。
そのデザインフォーマットを引用した今回のリブランディングは、そのプロポーションを維持した展開が多く見られる。そうした実施イメージを見ると意図や目的が読み取れるのではないだろうか。国境を越えたグローバルブランドが、新しい旗を獲得する一歩としての印象的なリブランディングに成功したと言えるだろう。
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