TeenageEngineeringブランド事例 プロダクトデザインとシンボルについて
2005年にスウェーデンで設立された電子楽器メーカー teenage engineering 。
同社の製品デザインはミニマリスティックでありながら、演奏や体験の楽しさを演出する工夫が随所に見られ、一見すると相反する要素を巧みに融合させている。
そうしたブランドの持つイメージはシンボルマークのデザインにも展開されており、ボルト、ナットを想起させるシルエットのシンボルマークのデザインについて取り上げる。
デザインは、2. Representational(具象的図形)に分類できる。ボルトのサイドビューをブランド名の「T」に見立て、ナットとの組合わせによって表現されている。
具象的なモチーフをベースにしたデザインにおいては、抽象度を適切に設定したうえで、要素を削ぎ落とし、シンボルとして様々なサイズ・メディアでの展開を見据えたデザインが重要である。
ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。
見慣れたモチーフによるシンボルマークのデザイン
ブランドを構成するアセットは「シンボルマーク(←)」と「ロゴタイプ(→)」の2つからなる。
特にシンボルマークはストロークの太いシンプルなラインで描画され、力強い堅牢な印象がある。
特徴的な斜めの角度をもつモチーフは、60°に全て揃えられている。ナットを正六角形で表現しており、その角度を基準にして設計されているものと推測される。
斜めに倒された「T」の上下は、ナットの上下の高さから、わずかに突き出ている。これは一般的な視覚補正の処理だと思われるが、上部の突き出しの方がわずかに小さい点は興味深い。
「T」の先端は半円になっており、そのためかストローク太さは横ストロークよりもやや狭く調整されている。(34/35の太さ)
同じ太さでも問題なさそうだが、右側のナット側との余白調整を含めた処理だろう。あまりに二つの要素に距離を持たせると一体感が損なわれる恐れがあり、出来る限り詰めるための調整が行われている。
インダストリアルグラフィックとしてのロゴタイプデザイン
ブランド名 “teenage engineering” のロゴタイプは可読性を優先したようにシンプルで精悍な印象。
右側に「Helvetica Now」(Helveticaのバリアブルフォント)で組んだものと比較している。基本的には「Helvetica」、もしくはそれに準ずる書体をベースに作字したものと思われる。
大きく異なるのは冒頭の「t」の垂直のストロークで、先端が斜めにカットされている。これは「Arial」のディティールに近く、ロゴタイプに軽やかな印象を与えている。
また「i」のドットを垂直ストローク(ステム)から離しており、要素間の余白を意図的に確保しているものと思われる。
オフセット印刷以外にもシルクや型押し、エンボスや立体ロゴなど工業製品への展開を見越したデザイン処理ではないだろうか。
最小パッケージデザインと高密度・精緻感の演出
電子楽器メーカーである teenage engineering の主な製品はシンセサイザー、ミキサー、マイクやレコーダーなど。
競合製品と比べて、同じ機能ながら出来る限りミニマムなパッケージに収めるデザインアプローチを採り、限られた面積、操作画面の中に、高密度で配置されたボタンやUI操作系が特徴的である。
そうした高密度感・精緻感が高いオリジナリティを構成しており、ひいてはブランドのアイデンティティに繋がっている。
製品サイズの小ささによる貧弱さを打ち消すために、筐体の多くは重量感のある金属素材が用いられており、アルマイト処置の高品位な素材とテクスチャーが見てとれる。
スマートフォンなどのアプリには、ボタンのフレーミングや立体的な表現が影を潜め、統一されたアイコンと最小限のテキスト情報によってデザインされている。
おわりに
設立は2005年と比較的若いメーカーですが、プロダクトのデザインは非常に独特でデザイン的にもクオリティが高いものがあります。
モビリティを想定したミニマムパッケージに収めようとするデザインは、他の製品でも一貫して表現されており、ブランドの確立におけるプロダクトデザイン・グラフィックデザインの融合が高い次元で実現しています。
*記事内で使用した「teenage engineering」のシンボルマーク・ロゴタイプおよび関連画像は、全て “teenage engineering” に帰属します。
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