CNETブランドロゴ刷新事例 グリッド・ロゴタイプ比較分析
1994年に設立されたCNETは、テクノロジーや家電製品に関するレビュー、ニュース、記事、ブログ等で知られるテクノロジーメディアブランド。2000年代前半のインターネットの隆盛とともにCNETはブームを迎え、今回新たなミッション策定と共にリブランディングを実施した。
新しいミッションは「news, tools and advice that help you navigate our ever-changing world(絶え間なく変化する世界をナビゲートするのに役立つニュース、ツール、アドバイス)」。新たなブランドは、アメリカのデザインカンパニー COLLINS がデザインが手がける。
ロゴマークのデザインを類型化すれば、4. Wordmarks(ワードマーク・文字)のデザインとなるだろう。全ての文字を正方形のグリッドに収めた個性的なロゴマークデザイン。ロゴマークデザインの分類について「ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類」へもまとめています。
トレンドに抗うブランディングデザイン
近年のリブランディング事例の多くが、時にシンプルすぎるサンセリフ体ばかりというトレンドにある中、強烈な印象を与える非常にチャレンジングなデザイン。
左側の旧ロゴタイプは日本でも広く知られ見慣れたデザインだが、よく見ると「n」のみスラブセリフ、それ以外はサンセリフ体という一見奇妙なもの。「c」と「n」の間にある垂直のストロークは書体の高さ(キャップハイト)から大きく突き抜け、明確な境界を表すかのようにみえる。書体のウェイトや「t」の上部に伸びたストローク(アセンダー)も強調しすぎる印象であるなどアンバランスさも感じる。
右側の新しいワードマークは全てを大文字のセリフ系書体と大幅にデザインが変更され、一見するとノスタルジックな印象を受けるものに。
個性的な「N」の書体デザイン
「N」の上下のセリフの処理も一般的な書体と比較すると若干不自然な印象を受ける。主にセリフが「内側」のみにしかデザインされていないからだが、そうした処理を行った理由を下に分析した。
①他の字形と同様のセリフを外側にも追加すると、セリフのサイズが大きく、明らかに前後のレタースペースに不都合が生じる。また、それを回避しようとして②セリフのサイズを小さく調整することも考えられるが、力強いセリフの印象が薄れ、オリジナリティが希薄になる。
③スラブセリフによく見られるように、均一のストロークによるスラブを追加すると、全体の印象や前後のスペースは比較的調和しているが、②と同様に力強さやオリジナリティの面で懸念がある。
こうしてみると、一見強引にも見える「N」のデザイン処理は、全ての文字を正方形のボックスに収め、レタースペース間の均一化とブロック表現を意図したものと理解できる。
ビジュアルシステムの展開デザイン
ブランドアイデンティティの鮮やかなレッドをベースとしたアプリケーション展開も綺麗。良い意味で古き良き時代を想起させる。
また、今回のリブランディングで特筆すべきはこのイラスト群、個性的で新たなブランディングデザインの世界観の構成に非常にうまく機能している。Robert Beatty 氏の80〜90年代を想起させるような独特のモチーフ選定と色使いが素晴らしい。
ブランド規定の書体について
ブランドボイスの確立には、Hoefler&Coの「Sentinel」という書体が大きな役割を果たしている。
スラブセリフの代表的な書体のひとつ「Clarendon」に似たディティールで、柔らかなカーブやノスタルジックな印象が、ロゴマークのデザインとうまく調和している。
参考までにHoefler&Coの「Sentinel」のページはこのようなもの。
縦組みによるCNETロゴマーク展開
CNETは本国アメリカの他、日本や韓国、フランスなどでも展開されているが、非常に興味深い点が フランス版CNET のフッターデザイン。
縦に組んでいるロゴマークの例は欧文では珍しく、一般的には調整が困難なものと思われるが、各文字のデザインを正方形のボックスでデザインした点をうまく機能させ、全体的にうまくまとまっている。
とはいえこの展開が公式なものかどうかは不明で、明らかに横組みのロゴマークのデザインとは異なる比率で配置されている。セリフの力強さによって一見すると大きな違和感は感じづらいが、正方形ボックスによるロゴマークデザイン、という観点からは、意図無く比率を変更するのは避けるべきでは。
おわりに
ニュースサイトという中立性が求められるデザインとも捉えられるが、自らのスタンスや思想を体現するブランディングデザインは、多くのネットメディアの中でも際立っている。
近年のリブランディング事例の多くがニュートラルさや可読性を過度に志向するが故に、どのブランドも似たようなサンセリフ体ばかりというトレンドにある中、強烈な印象を与える非常にチャレンジングなデザインが素晴らしい。
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